本の雑誌 2022年10月号 – 服部文祥の食料を作るためのエネルギーという観点は怖い

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本の雑誌 2022年10月号 (No.472) / 本の雑誌社 / 700円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集は「あなたの知らない索引の世界」

索引が充実して初めて意味を成す本はあるだろうし、そうしたあるべき本に索引がないと最悪だよなと想像はつきますし、実際、技術書におざなりに付けられた索引に不便したことが何度もあります。また、『独学大全』のような、索引が作品そのものとなる例もあるでしょう。
ただ、残念ながら「本の雑誌」の「掲載図書索引」をほとんど使ったことがありません。「バックナンバーのどこかの書評を読みたい」機会があまりなく、「成分表示」的に「ベスト10」号で重複分を確認するくらい。【ま】の嘆き通りで、申し訳ない…。

新刊のクリス・ウィタカー『われら闇より天を見る』は、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』同様、読めばきっと面白いのでしょうが、早川書房ならC・パム・ザン『その丘が黄金ならば』を読みたい。ゴールドラッシュ後のアメリカ西部で死んだ父の埋蔵場所を探す中国系移民2世の子供二人。絶望しかないはずなのに惹かれます。
初鹿野創『現実でラブコメできないとだれが決めた?』はラノベ陰謀小説。凝った背景と気持ちの良いエンディングが楽しそうです。一方、荻道顕『ループ・オブ・ザ・コード』は、伊藤計劃なのでラストは疲れそう。
村山由佳『星屑』は70年代後半の芸能界物語。むちゃくちゃ面白そうなのに、てんこ盛りの特徴の1個の「出生の秘密」で、あぁ…となりました。
マシュー・デニソン『ザ・クイーン』は凄いタイミングの出版ですね。死後、特集が組まれ、葬儀も延々と中継されていましたが、自分でも驚くほどに興味がわきません。どの絵をみてもかっこいいのにときめかない。ダイアナの結婚式はとてもドキドキしたのに。

♪akiraは羊つながりで、ジェイムズ・リーバンクス『羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季』と映画「LAMB/ラム」を紹介。湖水地方も映画の舞台のアイスランドも、名前の響きだけで昔から憧れの地です。セルビアに行ったんだから、行く気になったら行けそうですが。

椎名誠の連載が面白い。最初は、また昔話か…と思ったのだけど、これまでの探検本エッセイや写真エッセイと違い、人間も背景も文章も生命力に満ちています。

服部文祥の「胸の奥の方がモヤモヤと嫌な感じになった」のがそのまま伝わる「現代のエネルギーダダ漏れ生活は見合う価値を持っているのか」。「食料を作るのに食料から摂取できるエネルギーの半分の石油が必要」という仮定が、非現実的な数字でないことに目眩がします。彼の狩猟生活から得た視点は異次元レベルで本質を突きます。
川口則弘は、威光をバックに仕事をした人には冷たいなぁ。せせこましい人間、無名の人間、下衆な人間には何だかんだ優しいのに。あと直木賞の『夜に星を放つ』に疑問を呈している。
V林田は新井清彦『新装版 軽便探訪』。オタクの作るものは、その趣味でない人でも良さが感じられる好例。撮影した位置と角度とか絶対ありがたいよね。

鏡明が引くのは岡野大嗣の「純粋読者」という言葉。短歌を詠まないで、読むだけの人のこと。詠むのが前提だったのが、ネットの登場で変化したと。『サラダ記念日』は例外中の例外だったのだろうな。

青山南は『グッドナイト・ムーン』から作者マーガレット・ワイズ・ブラウンの師匠、ルーシー・スプレイグ・ミッチェルの話。子どもがすきなものをフィールドワークから得る姿勢も良いが結果のおとぎ話、オノマトペもだが、「たくさん馬のいる馬小屋」の大きい小さいが本当に楽しい。アン・キャロル・ムーアの頑なな態度の背景は何なんだろうな。子どもが身近にいなかったのだろうか?

沢野ひとしはここ数ヶ月、大日向村の満州移住について。結末を知っているだけに移住開始の描写とか悲しい。また他の人も同じと思うが断片的なわずかな知識しかなく、現地人が開拓していた場所を追い出しての移住とか、満州鉄道の社員数が40万人とか、驚くことばかり。

新保博久の真保裕一の10冊。のはずだが、シンポ教授らしく同ジャンルの別作家の紹介が多く、逆に違和感。もう少しストレートに紹介しても良いと思いました。

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