破滅派16号 追悼・山谷感人 – 亡霊のような圧と園田さん

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月末の文学フリマで新刊が出る前に片付けようと、ゴールデンウィークの中日に積ん読の「破滅派16号 追悼 山谷感人」を読んでたら、偽物であることにかけては、誰よりも本物だった山谷感人の、亡霊のような圧に疲れました。多くの同人は直接の関係はないはずですが、みんな料理が上手だわ。薄気味悪い写真と真っ赤な表紙がぴったりです。

前半の創作は、山谷感人を題材に自分の得意分野、純愛(なのか?)、パスティーシュ、SF、ミステリに持ち込んだ感じでみんな上手い。後半のエセーは山谷感人との時代的、心理的な距離感がテーマで、異次元の凶悪動物を観察している感が、同じ側にいる人間として安心して読めます。ちなみに高橋文樹は、稀な中間にいられる人なのだろうな。と、ここまでは普通の読書。

…が、ラスト、牧野楠葉「365日、母子オムツっ子の記録」の園田さんで一変。事実であれフィクションであれ、こうまで愚かな31歳をよくも描けたものだと感心します。インタビュー形式の構成も大成功。筆者がどんなに救いの手を述べようと話題を変えようと、「母親に好かれるにはどうすればいいのか?」という視点だけで、ぐるぐる同じ答えを返す部分は笑いを通り越して本当に怖いし、刑事の尋問もかくやの畳み掛ける質問シーンは雑な、通り一辺倒の安い回答に終止し、逆の意味で怖い。駄目エリート中のエリートを描く作者の試みは成功しましたが、最後に持ってきたものだから、全部持って行かれて読後感は最悪です。あぁ。

曾根崎十三「好きで溺れてる」

オタサーの姫で元山谷感人の彼女、可奈に結婚後もいいように弄ばれる元文学青年が主人公。ストーカーしてしまうほどに思い詰め、可奈の一言一言に浮き沈む感情が執拗に語られます。この部分が良いため、後半、しゅうちゃんのためのポエムが純愛なのか演技なのか分からずよい効果を挙げます。多分後者。全然、純愛じゃない。

大猫「愛猫物語」

教養と70年代、80年代のヒット曲愛に溢れていて楽しい。明治の文豪風、伊勢物語風のリズムが最高にいいし、ベストヒットUSA風は、文字で書かれているのに容易に小林克也の声で再生され、「可愛いバンドだけど、サウンドは本格派」みたいなお決まりの文句も冴えます。あと、ディオンヌ・ワーウィック「ハートブレイカー」は好きでした。

Juan.B「山谷感人調書」

「あかるい核のみらい館 with 東京わくわく高速増殖炉」での仕事が決まり、長崎から上京する山谷感人。もうこの設定だけでワクワクするのに、その後のバカ展開も期待を裏切りません。ラストのSFチックな大風呂敷感もいいわぁ。ミツコは前作でも登場してましたが、自由への憧れが好きなキャラです。

高橋文樹 「山谷感人年表」 & 「山谷感人LINE攻撃集」

「フェイタル・コネクション」を読んだときも思ったけど、よくまぁ今も付き合い、会話し、金を貸すよなぁ…。どうしたら「復縁」できるんだ…。そもそも、大人が絶好なんてするんだ、という藤城孝輔の問いは私も同じです。

波野發作「高橋文樹と8人の破滅派」

山谷感人を含む、破滅派初期メンバーに関する謎解き。「謎」そのものもネタなので書きませんが、作者も自覚しているように苦しいながらよく小説にまで持ってきたな、と思います。ちなみに大瀧詠一も同じことをやってました。

諏訪靖彦「グッド・バイ」

少しだけ山谷感人に触れて、大迷惑する話。実話なんだろうなぁ…。YouTube の「ふみちゃんれねる」で見かけて私もときめいたんだがな。LINE交換しなくて良かった。

藤城孝輔「勝手にくたばれ、山谷感人」

山谷感人的なもの、初期破滅派的なものに多少の憧憬はあるが、(ほぼ多くの人がそうであるように)なりきれない話。私もでかいスーツケースにビジネスホテル派なのでよく分かります。

松尾模糊「オン・ザ・ロード」

作品『逆行』に対する山谷感人のコメントから逃げられない話。書かない自分をそのまま受け入れている山谷感人に、火曜サスペンス劇場の呪いをかけられるなんて嫌すぎる。書き続けられることを願います。

諏訪真「泪橋ですれ違ったもの」

山谷感人との共通点を探りつつ、小説への姿勢を振り返る作品。何らかの変化を期待して訪問しただろう山谷行きが、天候にさえ裏切られるシーンに、筆者の小説を書けない様が表されたよう。

牧野楠葉「365日、母子オムツっ子の記録」

前述どおり。
過度の説明を抑え、スピード感のある対話で気持ち悪さを盛り上げます。巻末を飾るにはふさわしい作品。ぐったり。

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