本の雑誌 2022年2月号 (No.465) / 本の雑誌社 / 700円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし
特集は「文体は人生である!」
絶叫歌人福島泰樹のインタビューは編集発行人浜本の意向でしょうね。短歌の文体は「一人称詩型」だそうです。発言の語尾に自分を観察しているかのような「でした。」「ました。」が続く中、時折、激しい口調が交じるインタビュー。本人の普段の語りを知っていたらもっと面白そう。動画で見てみたい。
嵐山光三郎 (80歳!) と椎名誠は「昭和軽薄体」についての振り返り。70年代後半の雑誌文化から生まれた今では極めて当たり前の、半径5mの言文一致運動。本人たちは3年で辟易、飽き飽きしたようですが、その後の、面白ければいい、面白くなければ駄目的な考え方を刷り込まれて卒業できなかった残念な私は、読書をエンタメとしてしか理解できず、教養を得る道具としての使い方を知らないまま無知な大人になったのでした。あぁ…。
志水辰夫『尋ねて雪か』のトクマ・ノベルズ版を文庫化でどのように改稿したかが素晴らしい。言葉が削られ、文章がぐんぐん乾いていく。凄い。天童荒太『家族狩り』の書き換えも、内容に絡むため比較は難しいでしょうが興味あります。
永江朗は文章謄本読み比べ。ライターとして役に立ったという鶴見俊輔『文章心得帖』、本多勝一『日本語の作文技術』は、結構真面目に買おうかなぁ。
徳永圭子の「文体が感じられるブックガイド・現代文学編」は良かった。紹介した3冊『雪の練習生』『飛族』『火山のふもとで』もですが、冒頭の読書の素晴らしさ、再読に絶える書物の分析が、優しく分かりやすく語られます。染みました。
川口則弘の新連載は文芸記者列伝。新聞紙上で書き手でなく記者として文学を論じた最初の人として堀紫山の紹介。歴史的な背景もあってとても面白い。明治3年に「横浜毎日新聞」が創刊されているので西南戦争は新聞記事になっている! そういえば明星大学の図書館の南北戦争記念館には、当時のニューヨーク・タイムズがあって(しかも色刷り!)、びっくりしたなぁ。
高野秀行はコロナによるホテルの隔離生活の様子を描くが、もう立派なパニックSFの描写。異世界と化したホテルに、ゾンビのような陽性者。パッキングの嬉しそうな様子も良い。
「古本屋台」はオヤブンの本をこっそり売りに来たのかと思いきや、背景と動機が明らかになって、あぁ…。おじさんの言葉がいいです「根本敬と丸尾末広ってのは変わっとるけどエログロとは違うよ 本によっちゃ高値もつく熱烈なファンを持つ作家だ」。作家、と。
新刊では佐々木譲『偽装同盟』。歴史改変モノで日露戦争に負けた日本が舞台。雑誌「すばる」で前作『抵抗都市』の冒頭だけを読みましたが、スピード感、緊張感が心地よかった。
すずきたけしのオススメは良い。『太陽系観光旅行読本』は旅行代理店のパンフ風の紹介らしい。見てみたい。『ビデオランド』は映画を所有することを可能にしたレンタルビデオの話。チェーン店とは異なる個人店の傾向はたしかにそのとおり。マニアックなジャンル分け、監督分けしてましたね。今でもTSUTAYA の並べ方は愛がなく乱暴だと思います。脱線だが、ブックオフの新人バイトへの指導の会話で「背表紙の色が似ているものは固める」とか言っててうーんとなったな。
北上次郎は馳星周には厳しい。そして競馬をギャンブルと言い切る姿勢に驚く。それを無視した競馬小説は好きでないのだ。
社会復帰を目指す人専門の求人誌なんてあるんですね、「Chance!!」。
色ページから、白黒ページに変わったページには、いつものように西村賢太。もうこの世にいなんだよな…。そんな目で見るとお酒がなぁとか思ってしまいます。藤澤清造の資料整理、自分の原稿の合間に献本された新刊の読書、白飯代わりの納豆二パック。残念です。
和氣正幸は最近流行の棚貸し本屋。中古レコード屋にも委託販売はありますね。面白い試みと思います。心配は万引かなぁ。小さい棚なら防げるかな。
V林田は国鉄労使問題。これが無茶苦茶面白い。事件そのものでなく、その背景、特に労働組合側の要求は何だったのか? を探る。テキストは升田嘉夫『戦後史のなかの国鉄労使』。上尾事件における勤労側の要求、その前に勤労と国労の違い。電化に伴う合理化。不謹慎なんでしょうが、面白い。『「鉄学」概論』『昭和解体』の切り捨て方もいい。
円城塔は『嗅ぐ文学、動く言葉、感じる読書』。自閉症の人と『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読む話に、「人の気持がわかる」ことは本当にあるのか?という問いを絡めて、ディック的な世界を開きます。なお、本号で大槻ケンヂは VTuber にディックを見ています。
大竹真奈美は寺地はるなの10冊。包容力の巨大な塊みたいな作品群。しかもただ受け入れるだけでなく、正しいとされているものにきちんと疑問を投げかける姿勢もある。気分が落ちたときの救いになりそうな読書。