本の雑誌 2021年9月号 (No.459) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし
特集は「海外ノンフィクションが面白い!」
毎号、冬木糸一のノンフィクション系新刊ガイドや、円城塔、風野春樹の紹介本を面白く思っていたら、その拡大版の特集です。50冊の21世紀版ノンフィクション全集、おすすめ本、編集者座談会、どれも本当にいいです。ノンフィクション本は、 タイトルや要約だけで魅力を伝えられるのが良いですね。冬木糸一と毎度の常連、東えりか、営業杉江が次から次へ挙げていく作品に一々ときめきます。
村井理子と亜紀書房は私もマークしました。編集者座談会によると翻訳者には調べ物もできて日本語もしっかりしている方が求められるようですので、村井理子はできた人なんでしょう。
「本棚が見たい」は岩郷重力。8割の本に自作の白いカバーをかけるあたりデザイナーだなぁ、と。顔を初めて見ました。
穂村弘は本や漫画以外にあまり執着しないのかと思っていたのでサラリーマン時代、夜な夜なネットオークションで腕時計を狙っていたと知り驚きました。Wikipedia によると SE だったらしい。へぇ…。
西村賢太は『苦役列車』を「稼いでくれた福の神」と言いつつ「愛着なし」。金沢も七尾も、カレーパン以外美味しいものがなく、人間がイヤらしいと散々。
大槻ケンヂは小説を書き始めたきっかけをあっけらかんと明かしています。見城徹の謝辞とかばらして問題ないのでしょうか。『グミ・チョコレート・パイン』はとても評判良く売れたイメージで、江口寿史のカバー絵も浮かびます。
高野秀行は「SF小説は展開の遅さが最大のウィークポイントだ。」、「SF小説の弱点がSF映画では最大の長所になっている」と世界観の描写の違いを華麗に分析します。しかし直後に「SF小説は世間では実にマイナーな存在だ。本を読む人たちの間でも非主流派である。ましてや読書好きではない人たちにとってSF小説は遠い宇宙の彼方でミミズ型星人が細々と営んでいる焼畑のようなもんである。」とこれまたあっけらかんと。きっとそんなイメージなんだろうなぁ、焼畑。
服部文祥は『アーミッシュの老いと終焉』。アーミッシュの若者は選択してアーミッシュになるとは知りませんでした。書影の紹介は誤植か? と思ったら「未知谷」が出版社名でした。
V林田は、鉄道車両の保存に生きた人、岸由一郎の紹介。こんなアクティブに動く人が早くに事故で亡くなるなんてなぁ…。
「古本屋台」で紹介される楳図かずお『イアラ』見てみたい。漫画の描写からすると箱入りです。
鏡明はリドル・ストーリーとして F・R・ストックトン「女か虎か」。有名みたいですが知りませんでした。いいなぁ、放り出し。
円城塔は『ブルース・チャトウィン』。紹介を読みながら、難しそうな人だなと思っていると、「強烈な発想力を備え、人を丸め込む口先を持ち、絶えず魅力を振りまき続け、心の中には踏み込ませず、集中力は続かない」。…続かないんかえ ! とツッコミを入れました。少しだけ興味。
藤岡みなみは「繰り返す夏の一日」として、それだけで映画になりそうな奈良の祖父母の家での夏休みの思い出と、夏とループもののスケラッコ『盆の国』を紹介。読み終えた瞬間、いいなぁとしみじみ思いました。
沢野ひとしがここしばらく楽しそうに紹介する竹久夢二はどうしようもない人間で、沢野はその駄目な部分が好きなので繰り返し酷さを強調するのでげんなり。翁久允が可愛そすぎるわ。
池上冬樹の静かで抑制の効いた文章に佐伯一麦の私小説が立ち上がるのは、読み物作家ガイド。私小説の魅力をここまで明確に表現できるんだ。すごい。
来月号の特集は「定年後は本当に本が読めるのか!?」。単純に眼の問題もありますし、物理的な本の読める量の問題、保存できるスペースの問題、時間の問題、そして恐ろしい趣向の問題。これまで買い集めてきた SF が読めなくなり(ハインラインのジュブナイルSFや、大量の未読のディック。そこには新訳もある)、無視してきた時代小説が好きになったらどうすればいいのか。さらにはもっと恐ろしい集中力が落ちてきて「読書」そのものができなくなったらどうすればいいのか。最後は撫でて愛でるだけになるのか。恐怖の特集です。