本の雑誌 2019年7月号 – 戦前のカフェは今のキャバクラだったらしい

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本の雑誌 2019年7月号 (No.433) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集は「川端賞を救え!」。
と、表紙には感嘆符付きで威勢よく書かれていますが、目次、見出しには「川端賞を救え!?」と疑問符付きで迷走しています。

その川端賞は「1年のうちで最も完成度の高い短編小説」だそうで、その歴史や作品紹介に加えて、短編小説そのものの良さや読み方を語る特集になっています。新潮社の新井久幸と文藝春秋の川田未穂の対談は具体的な作家名や指針をたくさん挙げていてよかったです。
目黒考二が怒っているのは第112回選考委員の藤沢周平、渡辺淳一、田辺聖子、平岩弓枝、五木寛之に対して。「直木賞のすべて」の管理人で冒頭を飾った川口則弘も同じ意見のようで、以下の記事では一番最初に志水辰夫『いまひとたびの』を挙げています。

ギリギリのところで落選した直木賞候補この5作がすごい!
https://shimirubon.jp/columns/1676913

令和になって1ヶ月程度でベストを選ぶおバカ企画、のはずの「令和のベストが早くも決定」が、1位内澤旬子『ストーカーとの七〇〇日戦争』、2位金原ひとみ『アタラクシア』、3位梨木香歩『椿宿の辺りに』、以下、ショーン・タン『セミ』、江國香織『彼女たちの場合は』と、年間ベスト級が並ぶ不思議さ。逆か。いい作品が多いからこのおバカ企画を立てたのか。やるな > 編集部

新刊は上のベスト作品以外では、仲野徹が薦めるブルーバックスの『植物たちの戦争 病原体との5億年サバイバル』と『はじめての量子化学』、北上次郎の薦めるハニング・マンケル『イタリアン・シューズ』。後者の宣伝のスタイルの「大ネタを書かない」を北上次郎は称賛します。ほんと書評家や編集者はそのような姿勢であるべきで、読者を未知数から誘うべきと強く思います。たとえば今号でも橋本恭の真梨幸子『初恋さがし』の紹介はネタを割りすぎです。

岡部愛が薦める漫画は、にくまん子の『泥の女通信』『恋煮込み愛つゆだく大盛り』。近藤ようこみたいのかな?

速水健朗は片岡義男『彼女のオートバイ、彼女の島』に関連して、再びホイチョイを取り上げます。何だ、好きなんじゃん。確かに『見栄講座』は煽りスタイルが奇跡的にマッチした作品です。
で、片岡義男。とても本物っぽい人なのですが、なぜに角川文庫で安く取り上げられることになり、ご本人はそれをどう思っていたのか、気になります。

山本貴光は「見えないマルジナリア」として「角筆」を取り上げます。インクを使わずに、押し凹ませることで書き込むというスタイル。奈良、平安のころで使われた筆記具。「無限に書ける」という意味不明さが最高です。

青山南は「男の陰には」。芸術家の夫に妻が多大な影響を与えた例…というよりゴーストなんじゃないのか? の例としてフィッツジェラルドの妻ゼルダ、カール・ラーションの妻カーリン、アルヴァ・アールトの妻アイノ。

平松洋子の「そばですよ」。インタビューがつまらなかったのか最後は原稿を埋めるのに苦労しているような…。

藤井一至『土 地球最後のナゾ』。理系本の面白さをここまで伝えられるのは円城塔しかいません。あ、風野春樹がいたか。その彼は『ヴィータ 生きされた者たちの生』。ブラジルの劣悪な精神病患者収容施設にいたカタリナの人生の再構築。誰もが見逃していたある事実ってなんだよ、無茶苦茶、気になるります。ちなみに日本でも精神科病院に長年入院している人がいるらしい。

「戦前のカフェは現在あるキャバクラや風俗店に近い存在であった。」まじか!? となったのは沢野ひとしの神保町物語。すずらん通りの一本南は花柳街でカフェが多数あったそうな。「夜の蝶」はカフェの女給のエプロンの紐の大きな蝶結びから、とか、大阪北新地のキスができる接吻カフェ「ベニア」とか。いろいろすごいな、カフェ。戦前の昭和のオシャレな景色を想像しながら読んでたのに…。

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