闇の天使 / ジャック・ヒギンズ / 黒原敏行訳 / ハヤカワ文庫 / 720円+税
カバーイラスト: 生頼範義 / カバーデザイン: ハヤカワ・デザイン
Angel of Death by Jack Higgins 1995
アイルランドとイギリスの和平交渉に反対するグループが様々な抵抗活動を行う。体制の区別なく暗殺を繰り返す「一月三十日」に、ファーガスン卿、ディロンらが対抗する。
小さな事件の羅列を淡々と描き、しかもそのどれもが盛り上がりません。ベイルートでの一幕や、ラングの最後など何かの冗談かと思うくらいあっさりしています。プルトニウムを奪う事件でこの程度かと。羊飼いのサム・リーとか存在自体の意味さえありませんし、ドラムグール修道院の話は往復の機内の描写のほうが長く感じるほどだし、キーオーの見せ場の演説も冴えない。単純に筆力の衰えですね。残念。
敵役「一月三十日」側の人物の設定や犯行の動機は良かったと思います。裏表のない余裕ある大人の会話やあっさりした男女の恋愛模様、安定より混乱の創造、KGB との個人的な諍いや退屈だからなどの今風な動機。特に動機部分は狂信的な革命熱や絶対的な悪役が説得力に欠ける現代の冒険小説においては上手い設定でした。
事件もこれまでのUボートや香港返還の絵空事に比べて現実的。メージャーやクリントンを出すお遊びも含めてよかったと思うんですよね。
原題を直訳すると『死の天使』。『闇の天使』はハリウッド流で弱すぎると書かれているのですが…(P.119) 生頼範義のカバーイラストもなぁ…。