シン・ゴジラ – 凄い、凄い

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シン・ゴジラ
総監督/脚本/編集:庵野秀明 監督/特技監督:樋口真嗣 主演:長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ

傑作です。素晴らしい。

昨今のリメイク映画と同様、オリジナルへのリスペクト感であふれ返りながら、新しい解釈や技術やアイデアを加えることで一段も二段も上のレベルに引き上げています。ハリウッドによるギャレス・エドワーズ版も大事に作られていましたし、何より VFX とは思えないゴジラの存在感は見事でしたが、庵野版はその技術的なレベルをも凌駕した上で、第1作にあった原始的な怖さまで再現しています。停電で真っ暗闇の都心をビームで焼き払い、一面火の海にした姿には、絶望感さえ感じました。しかもアイデアてんこ盛りのくせに分かりやすい脚本と力強いクリアな演出によって、ただの怪獣対策ドラマ部分が面白すぎ。ここまで面白いなんて驚異的です。

冒頭、ボートの調査からトンネル事故、首相官邸会議と畳み掛ける演出に迷いは一切ありません。長大な台詞がクリアに語られ、呆れるべき所、笑うべき所、盛り上がる所がそれぞれ明確です。夫婦愛だの親子の絆だの怪獣と意思を交わせる美少女だのくだらないストーリーを語っている暇はありません。

一貫して政府の動きを細かく見せた部分は面白いですよね。記者会見の段取りとか、取り巻く官僚の動きとか、防災服を出すところとか、火器のグレードを上げる度に許可を求める所とか、一つ一つ描き出すことで初動の対応の鈍さや非効率さがどんどん解消され、政治家の顔が引き締まっていく過程がよく分かります。政治的な駆け引きでタイムリミットを伸ばした映画が過去にあったでしょうか? しかも首相が頭を下げ続けるシーンまであるし。

ちなみに本作は女優陣がとにかくいいです。石原さとみの頑張りはもちろんですが、防衛大臣の余貴美子、環境省の市川実日子 – 放射線の半減期が短いことを知りはじめて微笑むところとかあざといですがいい、片桐はいりもしっかり持って行きました。

そして自衛隊は終始かっこいい。作戦は立案段階から迷いも組織間の混乱もありませんし、実戦はもちろん、多摩川作戦のあとも「これからは住民避難に当たれ」ですからね。「仕事ですから」の一言も効きます。

全体に言えることは人間や政治や日本を信じている監督の優しさが行き渡っていて、足引っ張りだけのバカがどこにも登場せず(だから野党やマスコミの質疑応答等のやり取りは一度もないのか?)全員に見せ場があるところもいいです。逃げ遅れた人間がいれば自衛隊は撃たないし、首相も撃たせない。核兵器の使用には全員ひたすら悩む。一方でアメリカはひたすら隠匿主義のゴリ押しで、だから(?)唯一ゴジラに撃ち落とされる。人間側、日本側の倫理観がはっきり統一されている点も見ていて安心できる部分です。

対するゴジラパートですがシンプルな展開でいながら、よく練れられています。ゴジラの動線が非常に分かりやすく、東京湾から上陸、いったんは自衛隊で攻撃しかけるが逃げ遅れた人がいるため中止でゴジラもフェードアウト、次は多摩川を防衛戦とした、大規模な自衛隊による軍事作戦。負ければ首都消失の線を誰もが思い浮かべる分かりやすいラインです。で、最期はタイムリミット付きの怒涛のクライマックス。ゴジラの生物学的な解釈も実に今風な古典の再構築ですし、放射線の問題も真正面から取り上げます。新幹線や在来線を使うアイデアに感動、呆れ、笑いと感情が色々混ざったシーンですが素晴らしい発想であることだけは確かです。

冒頭、たまに見える怪獣の間抜けな頭部の造形だけは昭和チックな絵で「何なんだ?」ですが(もしや、ここだけ着ぐるみ & 特撮?)、もちろんこれは後半への布石。ボートや自動車がどんがらがっちゃん流され、瓦屋根がばらばら壊れるシーン、そして電線越しのゴジラの移動撮影で、ギャレス版を越えました。ちなみにギャレス版での最大の見所はビルの倒壊シーンでしたが、今回はそれを越えるビル倒壊シーンが後半に登場します。それくらい俺達もできるよ、という日本チームの声でしょうか?

ゴジラとヘリコプターの大きさの差をワンカットで描き出せたのはよかったですね。しかも1回目は対峙させるだけで先延ばしし、2回目を作るという映画的な巧さ(予告で流しすぎたのがちょっと残念)。バルカン砲の小ささ、ミサイルの規模感、戦車の迫力等々が過去のどんな映画でも観たことのない臨場感で描かれ、息を呑むとはまさにこのこと。俺たちがこれまで見せられてきた特撮は何だったのか、と思わずにいられません。

と書いていて思ったけど、これって8mm版「ウルトラマン」を観た時の感想と似ているな。一人の天才の視点ですべてがひっくり返るということか。

「火器が効かない」意味が映像で語られるため、後半の高層ビルで押しつぶし、高速で列車をぶつけ、口から凍結液を差し込む作戦の意味も増しますし、昔の「Super X」とかのバカバカしさが際立ちます。

怪獣映画お決まりのモブシーンも最高でした。手持ちカメラが効果的でしたし、ニコニコや Twitter までをも組み合わせた携帯やビデオの映像も良かった。少し物足りなかったのが、300万人の避難やその後の都心のガランとした様子、立川に命からがら逃げてきた感じ。台詞でしか語られないため説得力がありませんでしたし、展開を急ぎました。ここらに監督の興味はなかったのかな。「エヴァンゲリオン」第一話の冒頭みたいな感じは欲しかった気もします。

それにしても素晴らしい。

atachibana

立花明 - 東京都在住、IT系企業勤務。 ブログでは本や映画の感想を中心に書いていますが、サイト構築の技術情報もたまに。WordPress Codex を中心に活動中。 連絡先はこちらです。

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