ZOO 1 / 乙一 / 集英社文庫 457円+税
ZOO 2 / 乙一 / 集英社文庫 419円+税
デザイン: 松田行正
北上次郎の名コピー「何なんだこれは。」でとても気になっていた作品。そして初めての乙一です。
どの作品も予想を裏切る舞台背景や展開、不思議なカタルシスに満ちていて標準以上の出来。特に「陽だまりの詩」はオールタイムベスト級の素晴らしさでした。
一方でいくつかの作品に見られる読書中の気持ち悪さ、薄気味悪さもオールタイムベスト級。海外ホラー映画や小説に慣れている私が、ザラッとした心臓をなぜるような嫌らしさに時々読むのを止めるくらい(こんなことは滅多にない)。あまり和物を知らないのですが、これが乙一独特なのか、和物ホラーの標準レベルなのか。
先に映画監督「安達寛高」作品には触れていて、また舞台挨拶やトークで実際の彼を見ていた私にはとても意外でした。理系オタクの略歴と見た目の感じから、もっとライトなものを想像していたのですがね。いい意味でも悪い(?)意味でも裏切られました。
「カザリとヨーコ」は気持ち悪さの典型。それまでにおけるヨーコへの虐待描写が痛すぎて、ラストで単純に「おっしゃー!」とはいきませんでした。「小公女セーラ」の最終回みたいといえばいいか。これが冒頭なのでキツイ立ち上がりです。ちなみに単行本版でもこれが冒頭。
「SEVEN ROOMS」。いきなり独房と水路に閉じ込められる姉弟という乱暴な設定に始まり、息を止めて汚水の中を潜らないと隣に辿りつけないという圧迫感が毎回繰り返され、呼吸が苦しくなります。脱出そのものよりも残された人間を思う気持ちと相まって、余韻は無茶苦茶悪いです。
続く「SO-far そ・ふぁー」はオチも展開も拍子抜けするくらいフツー。
そして「陽だまりの詩」。本作中の、というか自分の生涯でもベスト級の作品。わずか40ページの作品の中に生きる喜びや死の悲しみが描かれ、しかもあっと驚く展開が含まれます。兎の話、ブロックで作る帆船の話、涙を流すということ。一つ一つのエピソードが素晴らしい。どうでもいいけど僕のだけ兎が齧っているというのは何かの暗示なのか、そのまま取ればいいのか今も謎。
表題作「ZOO」は可もなく不可もなく。
2巻目に行って「血液を探せ!」と「落ちる飛行機の中で」はドタバタコメディ。あえてのベタベタですが意外と笑わせますし、気持ちよくしっかり終わらせます。好きです。
「冷たい森の白い家」はここまで読んで来ればフツー。ただ少女の背が縮んでしまうのがどうにも…。最後のエピソードも、次の日の赤毛の女の子の悲痛を思うと泣けてくる。
「Closet」は「血液を探せ!」以上のしっかりしたミステリー。読み返すとその技巧に感心します。
「神の言葉」は前半のアサガオのエピソード以上に広がりがなかったのは残念。
「むかし夕日の公園で」はちょっとした作品で、あともう一つ、二つ話が転がっても良かったな。