本の雑誌 2015年10月号 (No.388) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン 和田誠 / 表紙イラスト 沢野ひとし
一度だけ行ったことがある「中目黒ブックセンター」が今月の本棚に登場。本文にもあるようにここは階段を上がり2階に行ってみて広さに驚き、そして品揃え、特にデザイン系雑誌の面陳ぶりにまた驚きました。確か線路側から入ると問い合わせカウンターもあったような。いい本屋さんでしたね。
特集は「角川春樹伝説!」。無茶苦茶悪人を期待していたらいい人でした的な単純なまとめになっていないのが素晴らしいです。かつ、その上で「死ぬまで現役の編集者なのだ!」ぶりがよく伝わってきてまた素晴らしい。
中でも、出版社の二代目として本を売るための映画だと嘯きながら大好きな映画作りに邁進したり、一人でエンターテインメントを興したりといった面以上に、「一緒にいたら絶対迷惑な人」っぷりが存分に発揮された角川書店、角川春樹事務所退職者の座談会が最高。戦国武将に仕えるようなものとは、本当にいい表現です。無茶苦茶優秀なんだろうけど、一緒にいたら疲れそうだわ。あっという間に裏切られそうだし。
そう言えば『帝都物語』の昭和編に出てくるんですよね。結構いい役で、冒頭の登場人物紹介にも出てくるくらい。出版当時は発行元に媚びたのか? と思っていたのですが、恐らく荒俣宏は伝聞のエピソードだけでなく直接本人とも怪しい会話を長時間交わした末に(そして、相当盛り上がった結果)、大伝奇小説に登場する資格あり、と、出したくて出したんだろうなと今、思いました。角川春樹本人も大喜びしている図が浮かびます。
また短歌賞だか俳句賞だかも自分で作って自分で受賞って何なんだ、そこまでして賞が欲しいか? と思っていましたが、これらを読んだ後だと確信するけど、すごく真面目に選んで自分の作品が一番、と確信した選考だったのでしょう。人間が違う、違いすぎる。
ところで逆に一番期待したツボちゃんのインタビューは正直ビミョー。角川春樹は編集者、それも超優秀な、ということはよく分かりましたが、んー、後半の座談会に負けてしまっています。
今月号は特集の貯金が大きかったからかな、さくっと読み終えました。
新刊は井上真偽『その可能性はすでに考えた』がとても面白そう。日下潤一は出版社が準備した文庫の手書き風のこ汚い帯を大批判。あれは私も嫌いです。あざとすぎるでしょ。書店のポップが乱立しているのも好きではありません。宮田珠己の嘘つき本の紹介は楽しい。『鼻行類』とか『平行植物』みたいなやつ。たとえば嘘っこ文字と図案で構成された『Codex Seraphinianus』、旧ソ連の宇宙船事故を描く『スプートニク』。特に後者は表紙もいい感じです。そういえば最近映画「食人族」がリマスターされてたけど当時は私の周囲でも信じていたやつ多かったなぁ。あれを信じている奴がいるのか、とその方が驚きだったけど…。
入江敦彦は京文化を必死で真似る江戸を小馬鹿にした話。いつも以上に筆が踊っています。そういえば最近『古今和歌集』の評論を読む機会がありましたがどうしても入江敦彦の主張が浮かんできてしまいニコニコしながら読んだのでした。例えば季節に対する日本人的な固定観念を植えつけるのが平安時代ですが、「秋は悲しいものだ」が中国の漢詩をベースにしていたり、鶯が鳴いて春がくる、泣かないから春はまだって固定観念だけの詩が複数作られたり、この浅薄な感じが入江敦彦の指摘どおりで指摘通りで笑います。
平松洋子は2回休み。好きさは伝わってきますが蕎麦屋と話して欲しいです。三角窓口は確実に若者が増えていて大変よい。意図的にでも常連を減らし、若者優先で行くべし。
円城塔はスタニスラフ・レム、風野春樹は意識の芽生え。一般向けでない理系(?)本を分かりやすく魅力たっぷりに伝える二人が並ぶページは良いです。
堀井慶一郎はまたいつもの安定のつまんなさ。編集部や他の読者は面白いと思っているのか?
奥泉光は『シューマンの指』の印象が強く繊細な文学青年のイメージでしたが、こうして「パターン化された感動」から離れた、幅広い10冊を紹介されると相当器用で技巧派な人なのだなと思いました。『『吾輩は猫である』殺人事件』のハードカバー版欲しくなりました。