本の雑誌増刊 おすすめ文庫王国 2015 / 本の雑誌社 / 760円 + 税
表紙イラスト 長谷川仁美 / 表紙デザイン 呉事務所装幀会
本の雑誌のベストテンの1位はいつも驚かされますが、選考過程だけ読むといい加減にやっているようで、絶対、浜本発行人は読んで推しているのだろうなという信頼感があります。だからこそ書店でも、広告帯でもきっちり扱われるのでしょう。
今回の文庫ベストテンの1位は、中野渡進『球団と喧嘩してクビになった野球選手』(双葉文庫)。版元も意外なら、ノンフィクションなのも意外。営業B(杉江さん)の猛烈な推しで決まったような感じですが、面白さは保証付きというところでしょうか。ちなみにジャンル別ベスト10では「ノンフィクション」枠でなく「エンタメノンフ」枠で選出されています。
2位は『火星の人』、3位は『大東京ぐるぐる自転車』。『人質の朗読会』『紙の月』は外しても(後半のジャンル別で出てきます)、固い所が残った感じ。地方出身者としては4位の『ここは退屈迎えに来て』タイトルに惹かれました。
その『火星の人』はSF部門の1位。そしてSF大将でもこれをネタに。そうかこんな話なのかと納得しそうになります。
永江朗と吉田伸子で『かわいそうだね?』の紹介が並び、視点が全く異なる所がおもしろいが、吉田伸子に分。で、その恋愛小説ベスト10はいつもながらに幅広く、だけど絶対の自信を持って薦めているのがよく分かり、どれをとっても面白そう。そんな彼女が絶賛する『スカーレット・ウィザード』は、なんとSF、しかも5巻で完結。今後の人生であまりシリーズ物に手を出したくない私には嬉しい限り。他の作品『花ならば赤く』『恋愛小説』等々ももちろんよさそう。
ところで企画として、「国内ミステリー」「海外ミステリー」「時代小説」「SF」それぞれでのシリーズ物の楽しみが紹介されています。私はもう怖くてブルブルですよ。牧眞司は「ツラくなったらすぐにヤメる」なんて書いているけどそれができれば苦労しません! だからグインには手を出していませんし、ローダンは105巻以降を(未だに)ぼちぼち探しています。デューンですか? えぇ、リロード物も含めて全部読みましたよ、つらかった…。ハインラインですか? 『愛に時間を』が全然面白くなかったけど、ハヤカワ文庫で以降の作品が積ん読で大量にあります(泣)。シリーズ物なんて手を出したくありません!!
話をジャンル別ベスト10に戻すと藤田香織は1位が『ピカタ』。これ本屋大賞のときも思ったけど翻訳小説と思っていたんだよね。改めて内容を読んでもそう思います。大事に読みたい作品。そして宇田川拓也の国内ミステリーベスト10は、作品に対する思いが強く感じられる良い紹介でした。
偏愛ベスト10は秋葉直哉の講談社文芸文庫。時間と色彩を絡ませながら、清く白い感性で全編ピリピリとした緊張感。最後の堀口大學でようやっと息をつく感じ。すごい力技です。
読書のベスト10も充実していますが、これは常連さんが連載陣並に手堅く、かつ、ジャンルが多岐にわたるのが主因かと。これで原稿料が出ないんだからなぁ(図書カードはもらえる?)
小路幸也は「我が心のベスト10」。オマージュ感いっぱいの文章で心が温かくなります。特に『渚にて』に寄せる文章が良いです。小説の持つ見えない強さと、最後は信じたい気持ちが伝わりました。いい人だなぁ。
労作なんだろうけど一般読者にはあまりありがたみが分からない「文庫移籍情報」は欄外の「赤川次郎、内田康夫、西村京太郎の移籍情報は除く」が一番興味がありました。大矢博子も前述国内ミステリーのシリーズ物では、あっさりこの 3人は除外しているし。ものすごい量が行ったり来たりをしているということでしょうが、であれば(だからこそ?)、冊数くらいは知りたいものです。
逆に門外漢でも面白いのが文庫Bリーグ。3年間続けて同じ企画というのも納得です。1位は講談社文庫、2位は集英社文庫、3位は双葉文庫。
そしてもう一つ毎年楽しみなのが巻末の大型書店どおしのトーク。今回は問題を起こしたジュンク堂は外したのか、丸善 v.s. 三省堂。若干トークが湿っぽいのは登場した書店員が真面目だからなのか、リストに面白みがないからか。驚きは翻訳物がサリンジャー『フラニーとズーイ』(これも村上春樹だが…)と、マクニール『戦争の世界史』しかないこと。冬だわ。
裏表紙の宣伝で講談社文庫の「新・綜合文庫宣言」。要は講談社文庫の並びで漫画文庫をやるだけの話に何を大仰な。自分自身に対して言い聞かせているような口調が逆に漫画を見下しているように感じました。もっと楽に行こうよ。