スノウ・クラッシュ / ニール・スティーヴンスン / 日暮雅通訳 / アスキー / 2400円+税
ブックデザイン : 鈴木成一デザイン室
Snow Crash by Neal Steaphenson (1992)
ネット世界メタヴァースの創始者で伝説のハッカー、ヒロは元恋人ジャニータの依頼でウイルス「スノウ・クラッシュ」の謎を、パートナーで配達屋の Y・T と共に追う。宗教家ボブ・ライフのデータバンクの中でヒロは、司書ライブラリアンと共に手がかりを探す。
ストーりーもキャラクターの造形も素晴らしい作品。今まで大概のサイバーパンク物を読みましたが、短編で作品世界を持続するものはあるものの、長編で読者を退屈させずに引き寄せ続けたものがあったかしら、と。エフィンジャーの作品は面白かったけどミステリ的要素が強かったしね。
で本書ですが何から何まで外しておらず、古びておらず、ひたすらにかっこいい。少し前に読んだギブスンの『あいどる』が経年変化でぼろぼろになっていたのに比し、それよりも4年も前に書かれた本書が何と綺羅びやかで今風か。1998年刊行の訳書を12年間も放っておきながら改めて驚いています。
何が素晴らしいって、冒頭からのスピード感にはやられます。いきなりタイムリミットすれすれのピザ配達とクーリエ便屋 Y・T の高速道路上でのプーン、そしてメタヴァース、ブラック・サンでのスノウ・クラッシュに剣劇、Y・Tのギャング・ビジネス。スピード感の象徴は<ネズミモドキ>でしょうか。最後に美味しいところを持って行ってくれます(正直、このシーケンスだけは消化不足気味だけど)。
ライブラリアンとの膨大な会話もわけ分からないなりに楽しいから驚きです。コンピュータ用語と宗教用語のシンクロ、聖書設立以前のエゴと民族史。そしてアシェラー崇拝の中に見つける、バイナリ世界との共通点。ここまで来ると、おぉ…! 『ダイヤモンド・エイジ』も期待です。