ユダヤ警官同盟

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ユダヤ警官同盟(上)(下) / マイケル・シェイボン / 黒原敏行訳 / 新潮文庫 / 590円+税(上) 629円+税(下)
カバー装画 影山 徹
The Yiddish Policement’s Union / Michael Chabon

1948年、イスラエルは建国間もない国家をアラブ人との戦争で失う。アメリカは、アラスカ、シトカ特別区は60年の期限付きでユダヤ移民を受け入れたが、その返却期限も目前に迫っている。
シトカの安ホテルに滞在する警部ランツマンは、同じホテルで起きた殺人事件の捜査を始める。麻薬中毒と思われる殺された男のそばにはゲーム途中のチェス盤があった。

歴史改変物として話題が先行していますが、中身はまずは純然たるミステリー。それもいわゆるハードボイルド。荒涼としたアラスカの風景にオーバーラップする形で、ランツマンの鬱屈した心情が描かれます。失った子供のこと、離婚のこと、事故死した妹のこと、死んだ男のこと等々。そこに行き場のないユダヤ人の閉塞的な感情がかぶっていきます(ここらへんはきっと翻訳の良さが貢献している部分も多いでしょう)。
死んだ男の周囲や過去が分かり始め、「奇跡」に触れるに連れ、読者は少しずつ「あれ?」と思います。そして下巻冒頭のディックとのドライブあたりから、今度は歴史改変物という舞台選びの意味が見えてきます。
凄いですね、ずっと読者の目の前で最大のテーマを語ってきたのに気づかせないのですから。しかもありとあらゆる物事、事件が全体の伏線という…。今年前半最大の話題作というのも納得です。

個人的には60年の長い年月のうちにシトカを故郷とするものがいる点にもひかれました。

 

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