ライチ☆光クラブ

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ライチ☆光クラブ (f×COMICS)
ライチ☆光クラブ / 古屋兎丸 / 1344円 (1280円)
原案 : 東京グランギニョル「ライチ光クラブ」(主宰 飴屋 法水)
装丁 : chutte

東京グランギニョルの1985年の舞台「ライチ光クラブ」の漫画化。初めて読み終わったときは、それこそ作者が始めて東京グランギニョルの舞台に「ガラチア 帝都物語」で触れた際の感想と同じ、すなわち「「なんなんだ? この世界は?」と人生が狂う程の衝撃を受けた。(実際狂った)暴力的な内容に暴力的な音響、見世物小屋のような怪しさ、怖くてしょうがなかった。(あとがき)」に近いものでした。

ただしそれでも余所者であるカノンがアジトにやってきて物語が動き始め、彼女が去って物語が終わる。その残された余韻は素晴らしく、しばらく頭で工場の音が鳴り響くようでした。作者のサイン会では当時の舞台の様子が流されましたが、予想したとおりの笛の音と怒号と音楽とが延々と続き、それを音の出ない漫画メディアで感じさせただけでも成功だったと思います。

何度か再読していると見えてくるのが登場人物の幼さ。ドイツ語でかっこつけたり、大人の女性を否定してみせても、同世代の女の子には指一本触れられず、どころか自分達の大事な光クラブを自己崩壊させてしまう始末。この責をジャイボ一人に負わすのは無理があり、ゼラ、タミヤ、ダフ、誰も彼もが浮き足立っていることに注目。唯一ニコだけは違いますが、彼はゼラとジャイボの行為の意味が分からないほどに遅れており、逆にだからこそ彼には物語に終止符を打つ資格があるのでしょう。またカノンに「最低!」と言われれば「蛍光中だからって馬鹿にするのか?」と日ごろのコンプレックスが出てしまうし、カノンはカノンで「機械になって生まれ変わるんだわ」とお馬鹿な部分を見せるし、ライチはもちろん生まれたばかりの赤ん坊だし。古屋兎丸の前作「Happiness」の「10代の少年や少女の息がつまるような喪失感」がここにもある気がします。

絵的にはところどころ黒い枠で見得を切ったかのようなシーンが印象的でした。それは世界史の女教師が裸にされる部分であり、タミヤの見得、ジャイボの最後等々。いずれも芝居の名場面を記念写真に収めたかのように時間が停止し、効果的でした。線画的な部分が多く、スクリーントーンが少なく見えるのは意図的か? 実際きれいなシーンが多いのですが、内臓や血液のシーンはまったくグロクなく、ある意味、非常に古屋兎丸らしい繊細さですが、こればかりは良かったのか悪かったのか判断に悩みます。ウォーホルの「悪魔のはらわた」を意識したのかもしれませんが、クレイヴンの「デッドリー・フレンド」のような汚さがあってもよかったのではないか、と。ちなみに「デッドリー・フレンド」ではライチばりに、ロボットが凄惨を極める人殺しを繰り返します。

さて以後は戯言。

私は80年代(=中学~大学)を九州で過ごしたため、残念ながら東京グランギニョルについてはまったく触れられていません。ただ、荒俣宏の「帝都物語」、およびその映画版は熱烈なファンで、その映画公開の際、新人として主役抜擢された嶋田久作さんに付せられた「東京グランギニョル」を、おかしな名前だなと思い記憶していました。嶋田さんがラブクラフト好きというのも意外で、荒俣さんゆかりの人かと思いました。今回、漫画を読みながらゼラの学ランを思わせる軍服と五芒星付きの白手袋(ドーマンセーマン)に、否が応でも、嶋田さん演じた映画「帝都物語」の加藤保憲を思い、そこからロボットのライチに嶋田さんを見たのは、似せて描かれていることもあって自然の成り行き、逆にあとがきを読んで、本当に舞台で嶋田さんがライチを演じたことを知り、驚きました。

さて、東京グランギニョルの「ガラチア 帝都物語」の公開が1985年、荒俣宏の「帝都物語 1 神霊篇」がカバー絵 丸尾末広で出版されたのが1985年1月。1988年公開の映画「帝都物語」の脚本 林海象、エグゼクティブ・プロデューサー一瀬隆重コンビが佐野史郎主演で「夢みるように眠りたい」を撮ったのは1986年。2ちゃん情報が正しければ佐野さんは舞台版ライチに出ていた(漫画のあとがきにあるポスターに「佐野領域」の名前がありますが、これでしょうか?)そうで。余談だが西村真琴の学天測が空に描く文字は「光」。私には両者に直接のつながりはないものの、何らかの関わりがあったのでは、と思います。ガラチアの写真など見ると、
http://www1.kcn.ne.jp/~yamaneko/comic/maruo/guignol.htm
多分に映画「帝都物語」が影響されたのかな、とか思いますが、さて。

と、ここまで書いてから「マンガ・エロティクスF 34号」の古屋兎丸、飴屋法水の対談を読むと、なんだ、「ガラチア」は一応「帝都物語」が原作なんだ。両者は全然関係ないと聞いたので、いろいろ考えたのにな。実際、「銀星倶楽部08 帝都物語」(1988)にも嶋田久作インタビューの写真のキャプション以外、一言もグランギニョルへの言及がないので、あえて無視していると思ったのですが、さて。
あと同性愛的な要素については、対談を読むまで意識さえしませんでした。後付けですが、異性愛も同性愛も一緒なのがこの時代、と、無意識に思っていたからでしょうか。

atachibana

立花明 - 東京都在住、IT系企業勤務。 WordPress Document Team メンバー。 連絡先はこちら

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