スキャナー・ダークリー

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スキャナー・ダークリー (ハヤカワ文庫SF)
スキャナー・ダークリー / フィリップ・K・ディック / 浅倉久志訳 / ハヤカワ文庫 / 924円 (880円)
Cover Illustration : 影山徹
Cover Direction & Design : 岩郷重力+T.K
A Scanner Darkly by Philip K. Dick

麻薬捜査官フレッドは、アークター名義でおとり捜査を続けながら、物質Dの出所を突き止めようとする。フレッドの上司ハンクは、アークターとその一味、特にアークターを重点監視するよう支持し、彼自身の部屋にスキャナー装置を取り付けさせる。フレッドは、自身演じるアークターが撮られたテープを、自身でチェックする毎日。物質Dに犯される過程で自身を同一視できなくなるアークター=フレッド。結局、女友達ドナの手で更生施設に放り込まれる。

ショッピングモール、「ダウナー」と明記されるヘロイン、フェラチオ、フレンチ・コネクション、ホラー映画、イージーライダー等々と70年代カウンターカルチャーのかたまりのような小説。単純に薬物で自己同一視できない部分にディックらしさを盛る、ただそれだけの小説家と思っていたら、驚きのエンディング。なんともしっかりした筋立てのある作品でした。振り返るにアークターの家にスキャン装置を取り付けるどんぴしゃりのタイミングでドナがいたわけで、ハンクを含め、終始、物質Dの出所だけを狙っていたという筋立て。素晴らしい。

一方で単純に薬物の怖さも訴え続けているわけで、至る所で主人公らが不安を訴えかけます。ディックの周りの現実もそうだったようです。すべてが明らかになったあとのドナとマイクの、マクドナルドでの会話にも、周囲の人間が抱くすべての感情が集約されていて寂しさをあおります。ちなみにここではドナの苦悩と不思議さ加減もよく描けていていいシーン。

他では途中に出てくる未開人は鏡像でしか自分を見たことがなく、写真が発明されて初めて人間は自分の顔を正しく見られるようになった、という説明が、その後の死者は目の前の葉っぱをどけられない、という話とともに心に残りました。

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