ハピネス / 古屋兎丸 / 小学館 / 750円 (714円)
装丁 chutte
表紙の涙が表すとおりの物悲しい短編集。主人公たちはどうしようもない現状から抜け出そうとしたり、抜け出せなかったり。そのどうしようもなさがつら過ぎて、かなりこたえます。それを突き抜けた向こうに薄日を感じるときもありますが。
「嬲られ踏まれそして咲くのは激情の花」ラスト、男教師の流す涙を考えてみる。このように別れ話しを切り出す男なら泣かないと思うし、そもそも写真も岸らがいるのを知っていてわざと捨てた風もあり、そろそろ潮時と思ったのではないか。なら涙は何だろう。教え子との火遊びからようやく本気になったということか。ベッドシーンはいやらしくて意外な面を見た感じ。
「ロリータ7号」話は意外な方向に展開して感動的ですが、そこでゴスロリは、ちょっと違うのではないかなぁ、と? 担任の先生の「ちっ」や、水かけババァの無駄な意味不明さがとても怖い。
「あくまのうた」モダンホラーのお約束を守って描かれた作品。家族に見捨てられた美加は、悪魔の花嫁になることを願い、望みはかなう。もう少し破綻するほうが好みかな。
「もしも」無限に地下鉄に乗り続け、くだらない話を続ける女子校生。本来なら寂しいんだろうけど、楽しそう。実際に楽しいのかも。本短編集中、唯一の「ショートカッツ」的画風。吉田戦車風のカットがかわいい。
<追記>今、あとがきを読んだら、吉田戦車本人でした。わわ。
「ハピネス」昔の村生ミオみたいな主人公の顔に納得できないまま読み進めていったら意外なラストが待っていました。途中ボート小屋でのルカの話に、性欲で応える拓也君のどこにそんな心意気があるのか、ちょっと不思議。
「雲のへや」最後に救いはあるものの、途中がやっぱりつら過ぎる。割りばしを紙の袋に3本入れて2円というのも「赤目四十八瀧心中未遂」のホルモン串作りみたいだし(あれもつらかったけど)、知的障害者、特に女の子がいたぶられるというのも、以前、ドラマでもあったが非常に抵抗があり、かつ、つらい。なのでその中の幸せ探しもどこか空しい。せめて最後はヒカル君に戻って欲しかった。クライマックス、空が崩れるイメージが面白い。
「インディゴエレジィ」今度は不良が登場する作品のお約束をしっかり守りつつ、「アート」のエッセンスを挿入して描かれた兎丸版「青い春」。しんごのこのありきたりな不良顔は今一つでは。
「アングラ・ドール」最初に読んだときはその言葉と裏腹に、救いのないエンディングだなぁと思いましたが、読み返してみて素直にハッピーエンドと取ってよい気がしてきました。なぜたまポンが部屋を知っているかと言えば、それはきっと彼に聞いたからに違いなく、彼はなぜたまポンに教えたかといえば、あの写真を見たからに違いなく、口では悪く言うものの、二人の将来に何か期待している部分があるのかな、と。ちなみに原作はりずむ。「マニエリズム」のモデルさん。背景にはこの作品があるようです。