本の雑誌 2015年12月号 (No.390) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン 和田誠 / 表紙イラスト 沢野ひとし
定期購読だからかチラシ「本の雑誌40週年記念オリジナルブックカバー(文庫サイズ) 発売!」が入っていました。手持ちの古い文庫カバーが軒並み最近のハヤカワ文庫に対応しておらず、結局書店の紙カバーを使い回すなどして苦労していたのでちょうど良い機会だと思っていたら
「残念ながらハヤカワ文庫のトールサイズには装着できません」
だそうです。
後発なのに、そして「本の雑誌」であればそれなりに SF 読者は多いだろうに、しかも注意書きをする程度には事前に分かっているのに、なんで対応しないかなぁ? 大部分の文庫で上下が余るのは嫌われたのですかねぇ…。確かに攻める相手が違う気もするので、早川書房には来年あたり元のサイズに戻すことを期待します。補完計画で増刷した分が大量にあるけど、やっぱり不便ですよ。
冒頭のカラーページで吉田豪の本棚登場。完全アウエーの読者に対して「文句あっか」と喧嘩売っている写真がとても良い(1回だけ万歩書店で登場したときも文句のツイートに対するフォローみたいなものでしたしね)。残念なことに部屋が狭くて良い撮影ポジションがなかったのか、さほど壮観とは思えません。本当は凄そうだけどな、残念。
特集は「太宰治は本当に人間失格なのか?」ですが、冒頭のツボちゃんと西村賢太の対談や亀和田武のエッセイから田中英光が強く浮かび上がりました。太宰治の墓の前で自殺する巨漢って凄い図だわ。その息子の田中光二もなぁ。
で、ダメ人間として選ばれたであろう西村賢太ですが、風俗発言のように無茶苦茶な人かと思っていたのに至極まっとうです。小谷野敦は賞から離れればいいのに、もはやそのこだわりが持ちネタのよう。太宰治の挙がった10作すべてが現在も流通しているのは凄い。
新刊では都甲幸治の全作品、すなわち『べつの言葉で』『自分ひとりの部屋』『カンディード』がよさそう。『べつの言葉で』はインド系アメリカ人の作者がイタリアに行き「限りない無力さとともに、強い自由と喜びを感じる」。そして『自分ひとりの部屋』ではヴァージニア・ウルフが女性というハンデからどのように自由を得るかを語る。カバーがどっちもいいです。新刊は他に『神の水』『ひりつく夜の音』など。
北上次郎が現代のアクション小説論を展開。月村了衛『影の中の影』に対して、80年代の冒険小説でないのだから戦うことの理由は不要では? という凄い論。マクリーンやヒギンズが停滞したのがまさにその部分だったので身も蓋もない。嘘でも戦う意味は必要と思うがなぁ。
秋葉直哉はいつもの慎重に言葉を選んだ繊細なタッチで、本の連続を描きます。最初はふーんって感じだったのですが、最後まで来て、慌てて最初に戻って読み直しました。
入江敦彦の読む京都は漫画編。知らない作品ばかりで読みどころや指摘が分からずとても残念。
平松洋子のそばエッセイは変化球な店。魅力的だけどきっと行かないなぁ。
三角窓口の徳永ミカの意見は絶対正しい。カフェ併設店で未購入の本を読ませる感覚は私にもまったく理解できません。コーヒーの染みがついた本を売って平気なの? と本気で思います。買った本ならいいんですよ、買った本なら。まだ売り物の本でしょ? それともみんなお店で品定めして、買うときはネットというパターンなのかなぁ…。
若島正の紹介する『国語笑辞典』はすごい、今読んでも面白い。今月書いた人のネタも注目。
堀井憲一郎はこの15年で新潮文庫から消えた海外作家の紹介。クリスティ消えてたの!? は驚きでした。確かにクリスティ文庫があれば要らないんだけど、それにしてもねぇ。
今月で浅生ハルミン、日下潤一、宮田珠己、萩原魚雷、久田かおりの連載終了。これだけ読むとエンタメノンフの時代が終わったようです。