本の雑誌 2014年10月号 (No.376) / 本の雑誌社 / 648円 + 税
表紙デザイン 和田誠 / 表紙イラスト 沢野ひとし
「今月の一冊」『ひみつの王国』は、いしいももこ101年の人生の評伝。菊池寛のところでアルバイトするのが1920年代、太宰治に想いを寄せられ、プーさんとミッフィーを訳し、岩波少年文庫を立ち上げ、村岡花子とも繋がって…。それこそドラマ化だわ。書店の店頭フェアが凄いことになるぞ。
特集は『日記は読みものである!』。私自身が興味のないテーマだからか(穂村弘の言う表現ジャンルの好き嫌いとしての嫌い、か)、うまく乗れませんでした。実際、29人にコメントを求めた結果も似た印象が強く(例外で堀井慶一郎)、シンポ教授もやっと原稿埋めましたって感じだし、ツボちゃんの5年前の日記は、いつもの連載と変わらない内容で特集の意味が無いような(『マイブック』を愛用しているのは可愛いけど、とみさわ昭仁が欲しがりそうだ)。
そんな中で面白そうなのは『富士日記』&『遊覧日記』(読んだはずだが…)、『わたしの献立日記』、『言わなければよかったのに日記』、例外で堀井慶一郎。『ウォーホル日記』は昔、青山南が索引をつけてくれーと言ってたけど日本語版はどうなんだろう?
関係ないけど、とみさわ昭仁と中嶋大介の対談は本質でない部分の、誰か既に集めている人がいると興味がなくなる、というコレクター魂がすごく通じました。
長嶋有の3万円のお買い物で惹かれたのが喪黒福造、ゴルゴ13以来の漫画界のダークヒーローという『ショコラの魔法』。ちゃお連載って、一体どんな内容なんだ。読んでみたいわ。
内澤旬子は表現としての服の考察。エッセイ自体は面白いんだけど、彼女の前に立ちたくない! と思います…。次はそんな自信のない人を選んでください。そうそう高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』は3万部とか。30万部くらい売れているのかと思ってました。
倉本さおりは、青山七恵『かけら』の解説で柴崎友香の濾した風景や技術をさらに読み解くという高度な技を披露。書評に関する感想を書いている人間にとっては羨ましい才能です。
水鏡子の「街の本屋がなくなるということ」は、ネット書店だけではダメな理由が淡々と書いてあり、でもあまり買えてないという現実も含めて共感。コンピュータ関連の書籍はいろいろ比較したいので大書店になりがちですが、せめても文芸書や文庫の新刊だけはと、街の本屋で、ですね。
酒井貞道は欧米ミステリーが題材としての中国への認識を改めているのでは、という面白い考察。結局日本は不思議な国のまま素通りされてしまった感がありますが、中国は大型の題材が豊富ですから当然か。
新刊で唖然はキム・スタンリー・ロビンスン『2312』。何年もおあずけの 3部作の3作目『ブルー・マーズ』はまだですか? > 東京創元社。って、常識的に考えて1作目、2作目があまり売れなかったのでしょう…。太陽系動乱で状況が良くなりますように。ケリー・リンクがモンスター絡みで3度紹介。柴田元幸に古屋美登里ですから紹介者に恵まれています。
津野海太郎は「「書く」よりも「読む」がいい」と幸田露伴と自分を重ねる話。老いど真ん中の感じが息苦しい。そしてベストセラー温故知新は作者体調不良により来月号までの3ヶ月休載とか。いつもの鋭い批評が読めないのは残念ですが、まずはゆっくり休まれることを願います。って、やっぱり高齢者雑誌か。ケータイ小説文庫読み比べくらいじゃ変わらないぞ。
円城塔、風野春樹、池澤春菜、柳下毅一郎はいつもながら鉄壁。「本の雑誌」を最初から順に読む人間にとって、後半のここの4ページの安心感は素晴らしい。