高い城の男 – 面白いねぇ

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高い城の男 / フィリップ・K・ディック / 浅倉久志訳 / ハヤカワ文庫SF 500円
カバー: 野中昇
The Man in the High Castle by Philip K. Dick, 1962

第二次世界大戦で枢軸国が勝利し、太平洋沿岸を日本が、欧州、アフリカ、宇宙をドイツが統治している世界。サンフランシスコ第一通商使節団代表の田上は、バイネス氏とのプラスチック射出成形法の契約の前に、アメリカ美術工芸品紹介のチルダンから贈り物を入手する。
フランクはチルダンの扱う歴史工芸品を偽造していたが、オリジナルを作り始める。
フランクの元妻ジュリアナはトラック運転手ジョーと、枢軸国が負けた世界を描く『イナゴ見重く横たわる』の著者で、「高い城」に籠もるアベンゼンに会いに行く。

再読。すっかり忘れていて初読も同然。面白い。誰も彼もが筮竹やコインと易経に思考や判断を丸投げしようとしていて、実際『イナゴ』を書き、枢軸国の負けが真実だとまで告げますが、それでも各人が現在を見据え、一歩先へ進む姿は非常にポジティブ。読後感も良い。

チルダンの変化がいい。最初は田上のご機嫌伺いで四苦八苦していたものが、梶浦夫妻宅で料理や会話の途中で日本人の猿真似を意識し、見下し(p.173)、フランクらの芸術家に謝罪を求め(p.275)、田上に「わたしの国の新しい生命」と紹介する(p.339)。アメリカ人が喜びそう。

大きな動きの中での駒にさえならない田上もいい。ミッキーマウス・ウォッチを贈るくだりでは単なる道化かと思ってたけど(p.66)、その後の活躍や事件後の内省、銀の三角から新しい啓示を得ようとする姿勢、ライス領事との対話もかっこいい。なおここでのライスの姿勢はSDを毛嫌いしているにしては不思議ですが、立場上仕方なかったのでしょう。田上も訴えられることはないはず。

ジュリアナは美人なのに自分をさっぱり男に売り込めず、結局それがアベンゼンの命を救う感情の爆発含め、とてもリアルで魅力的でした。近くにいたら振り回されて迷惑を被りそうだけど…。彼女だけは変わらず不幸なまま…と思いましたが、そうかこれからフランクのアクセサリに出会うのか。

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