本屋大賞2018 / 本の雑誌社 / 2018 / 648円+税
表紙デザイン 寄藤文平
大賞は辻村深月『かがみの孤城』
『島はぼくらと』『ハケンアニメ!』『朝は来る』『東京會舘とわたし』 と来ての受賞で文句なし。最初に北上次郎の書評を読んだときは、ひきこもりの中学生らの話で最後に驚きのエンディング! 的な話なら、読めばきっと面白いんだろうけど私はいいかなぁ…、と思ったのでした。ポプラ社だし。で、毎度のことですが私の勘は鈍かったわけです。ちなみに9位 村山早紀『百貨の魔法』もポプラ社。健全そうな出版物だからと敬遠しちゃいかんですね。
2位の柚月裕子『盤上の向日葵』は棋士の生涯にミステリーを絡めた作品、3位の今村昌弘『屍人荘の殺人』は新本格の高度なアレンジでどちらも順当。そして4位はいつか必ず大賞を取ると信じている原田マハの『たゆたえども沈まず』。
全体を振り返ると、心の優しい話とミステリーが多いかな。あと本屋、出版関連が9位、12位、27位と目立ちます。10位の小川糸『キラキラ共和国』の代筆屋さんも加えていい。
下位でピンときたのは、
古処誠二『いくさの底』(p.54)。冒険小説ならともかく、「戦時中の日本の小説」に何の興味もない私の心を揺すぶる紹介を書いた丸善桶川点の匿名はエライ!
高頭佐和子は毎度の中山可穂で『ゼロ・アワー』(p.51)。編集B浜田の応援もあって、カバー絵つきの紹介…と書くと何か皮肉っぽいけど、プロの書評です。
川崎徹『あなたが子供だった頃、わたしはもう大人だった』(p.62)は奥さんの方が12歳上の夫婦の話。タイトルがいい。
しかし毎年思うけど紹介文の中に「生き様」が多いね…。
翻訳小説
相変わらず票数が少なくて寂しい翻訳小説部門。一人で3作も投票できるのに、1位のステファニー・ガーバー『カラヴァル』は14票、2位の陳浩基『13・67』は9票、3位のボストン・テラン『その犬の歩むところ』に至ってはたったの4票。全国の書店員で結託すればどんな本でも1位になりますよ。
フランク・ボルシュ『スターダスト』(P.115)。は、紹介文だけだとローダン物とわからないところがいい。
旧刊・お宝推薦 発掘本
毎年熱のこもった冒頭の「超発掘本」ですが、今年は勝木書店本店の樋口麻衣が、この本を売りたくて書店員になったとものすごいお勧めをしてきます、折原一『異人たちの館』。
高藤佐和子、間室道子、と有名書店員が並んでいるのは偶然なのか、必然なのか(P.130)? ちなみに前者はフジモトマサル『二週間の休暇』、後者は三島由紀夫『春の雪』をおすすめしています。
松下喜代子『孫子の兵法』(p.137)はそこらの孫子本とは違うのだということを丁寧に伝えた正文館書店の鶴田真。 素晴らしい。
石田孫太郎『猫』(p.139)は、明治に刊行された猫百科らしいです。そんな本が明治に書かれていたという事実に驚きます。読みたい!
サラ・グランバム『進化くん』。「生物多様性くん」と漫才する写真集らしいです。見たい!
歴代受賞者の言葉
第15回の節目ということで今回は「歴代受賞者のことば」が付いています。受賞時の思い出を語る人、受賞後の思いを語る人、本屋への感謝を述べる人とさまざまです。
ただし百田尚樹の文章には一言。「女性が好む作品が選ばれる傾向」という分析や 「直木賞に対するアンチテーゼ」という認識は良いと思いますが、
本屋大賞の初期の目的の一つでもあったはずの「知られざる名作」「隠れた佳作」
というのはなかったと思います。少なくとも第3回でリリー・フランキー『東京タワー』を大賞にしたときも同じ批判を受けましたが、「売れている本」ではなく「売りたい本」という選考基準は当時も今もぶれていないと思います。前回、直木賞作品の恩田陸『蜜蜂と遠雷』を選んだ理由も同じ。書店員匿名座談会での「せっかくの芥川賞、直木賞なのに売りたい本を選んでくれない」が「本屋大賞」発足の動機だったことを考えれば、 直木賞が本屋が売りたくなる本を選んだだけのことと思います。その意味で私は去年の本屋大賞の感想で「一区切り」と書いたわけです。
おしまい