本の雑誌 2025年3月号 – 日下三蔵の横溝正史のガイドが良かった

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本の雑誌 2025年3月号 (No.501) アスパラ一本立ち号 / 本の雑誌社 / 800円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集: 私はこれで書きました。

「本の雑誌」らしく(?)、万年筆で始まり、書院、ポメラ、親指シフトキーボード、オアシスなんてのも出てきますが、ほとんどはコンピューター雑誌もかくやの UTF-8、GitHub、VSCode、正規表現等々。執筆環境を質問されている作家さんたちも喜々として自分の環境を紹介しています。

VS-Code 拡張「novel-writer」を開発した藤井太洋、いろんなコードを書いている円城塔といかにもな人たちを押しのけて凄いのが坂本歩のExcelの【シーン表】。小説の要件定義書のような詳細設計書のような代物で「私の執筆作業は【シーン表】からワープロソフトに移る時には八割方終わっています。」やら「『ひとつ屋根の下の殺人』には全部で73の伏線を張りましたが」などと強すぎました。北方謙三の下書き無しで一発書きというのも凄いですけどね。

新刊

大森望のSFは海外モノ中心で低調。『HUJAN 雨』を「インドネシアの長編SFの邦訳はたぶん史上初」と紹介するけど『スーパーノヴァ エピソード1 騎士と姫と流星』はSFじゃないのかなと思いました。積ん読状態なので読んで確認します。
『普通の子』は久田かおりと藤田香織が推奨。ラストが凄いみたいだけど、小学生のいじめがテーマらしくちょっと敬遠。
霜月蒼は『暗殺者の矜持』。グリーニーはコンスタントに良さげで相変わらず気になります。ちなみに字が読めなかった「矜持」は「きょうじ」。「自分の能力を信じていだく誇り。プライド」らしい。それだけで読みたいわ。
山岸真では『バベル』。「翻訳の魔力で大英帝国が派遣を握る」とは、なんてそそるんでしょう!

連載

小山力也は高円寺の西部古書会館。野方に住んでいた頃、1回だけ行ったことがありますがそんな立派で貴重な場だったとは。もっと通えばよかった。
rn press と RIGHT NOW BOOKSTAND を取り上げたのが和氣正幸と竹田信弥。ただし現在は実店舗を閉じているそうなので、和氣のは若干ミスリード気味。
urbanseaは『「”右翼” 雑誌」の舞台裏』。右翼、左翼と簡単に分けられないのは確かにそのとおりですが、お互い対話だけはして欲しいと思います。
永江朗は京都に引っ越すにあたり「本が生きる古書店を探す」。気持ちは良くわかります。等々力駅前に住んでいたらしく知った名前が多数。自由が丘の西村文生堂は、元々国内ミステリーが強い所にサンリオSF文庫なども並んでいたのですが、現在ちょっと残念な品揃え。奥沢のピナンスブックスはまったくのノーチェック。これがそのときのかな。
https://x.com/pinnacebo/status/1775368309061611895
今度行ってみます。そういえば「今月書いた人」で鏡明が自由が丘不二屋書店が閉店することに言及 (2/20閉店。残念…)。こうした人たちとすれ違ってたかもしれないんだな。
内澤旬子は薪ストーブ設置の話(沢野ひとしでも出てくる)。同じようなDIYでない人種なので、胃が痛くなります。

それにしてもここらの連載陣の並びにずっと人生の後半感があって何と言うか、「本の雑誌」も年取ったよなぁと思う。俺もだけど。

三橋曉は『十角館の殺人』。これは将来読みたいのでパス。
「この支配からの卒業」の栗原康と服部文祥が並んで同じ疑問「何のために働くのか?」。角幡唯介の冒険は「制約下での冒険」ではなく、便利な文明にあえてたよらない冒険、が面白い。要は8合目まで車で行ってからの頂上は「登山」なの?、麓からの登山は制約なの?という話。わかりやすい。ちなみにいつも読み方がわからなくなる「角幡唯介」は「かくはたゆうすけ」、「服部文祥」は「はっとりぶんしょう」
北原尚彦は「ドイル自伝に叫ぶ!」わかるわ~。私も失くした星野之宣「2001夜物語」全3巻を格安で見つけたときは嬉しかった。その前の「ドイル傑作集」の発見は私もまったく同じで、全3巻と思ってたら、ネットオークションでその先の巻を見てびっくりした記憶があります。出版社は品切れになったら著作リストを勝手に減らすの止めてほしいよな。
3年続いた青山南の「『グッドナイト・ムーン』の怪」は終了。ずっと面白かった。ワクワクしながら調べている感が伝わってくるせいでしょう。

べつやくれいは『ロックと悪魔』。ヘヴィメタの向こうに悪魔がいるってのはそんなもんだと思ってましたが、アンチ神様であり、悪魔は神様に作られた存在とするカトリックより、神様と対等な存在とするプロテスタントの国でヘヴィメタは盛り上がっているという説に驚きました、納得するけど。文化の違いにより理解度も異なるのは仕方ないとはいえ、筆者のさみしさも理解できます。
藤岡みなみは『時間移民』でコールドスリープ。私には睡眠者のために何百年もエネルギーを維持する会社 or 体制が非現実的すぎて、あまり感心しません。
風野春樹はナイチンゲールの著書『看護覚え書』。辛辣、かも知れないけど現場感があります。優秀な人だったんだなと改めて思います。

日下三蔵は横溝正史の10冊。ふーん、どんなの選ぶんだろうと思ったら、無茶苦茶面白く、勉強になる波瀾万丈の生涯の紹介でした。ご多分にもれず角川映画、角川文庫のブーム以降しか知らない人間で、何となく編集者だった過去は知ってましたが、こんな凄い方だったんですね。戦中は仕方なく人形佐七捕物帖を書いていていたのかと思っていたらそんなことはなく(それ以前に別のシリーズも書いていた)、戦前にはあらゆるジャンルを書いていたらしく、編集者としても優秀で、一度引退してからの『仮面舞踏会』『病院坂の首縊りの家』『悪霊島』と。人間的にも優れた方だったそうで、いやはや凄い。

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