本の雑誌 2025年2月号 – 結局は「紙と印刷」人間だった

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本の雑誌 2025年1月号 (No.500) 紅梅白梅うきうき号 / 本の雑誌社 / 800円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

「モキュメンタリー」という語がp.6とp.42とp.97に登場。フェイクのドキュメンタリー、とは何となく知ってたけど改めて語源は何だろう? と思ったら「モック・ドキュメンタリー」(mockumentary) でした。「食人族」ですな。

特集: 500号記念号

「本の雑誌」との最初の出会いは大学生協の本屋で「ダ・カーポ」の理想の週刊誌?批判記事を立ち読みして面白いなぁと思ってから。確か53号。で、54号の特小号でびっくりして、55号から書い始めたんじゃなかったかな。しばらくして定期購読を始めたけど、1990年、社会人1年目で購読料を払い忘れて1ヶ月中断し、からの定期購読が現在まで。全部読んでて、全部捨ててません。途中ヤフオク等でバックナンバーを購入し、1号~10号の復刻版を購入し、残りは19号と20号。もう少し。
その中で記憶に残っているのは、私も1997年3月号(第165号)の「この10年のSFはみんなクズだ!」。高橋良平は本意じゃなかったみたいだけど、今の「夏」の状況と比較すればやっぱり「冬」だった印象です。

500ページ以上のミステリー、SF、現代文学、オールタイムベスト。『2666』や『モスカット一族』は神保町ブックフリマの白水社、未知谷でそれぞれ実物を見て驚きました、これはとても持って帰れないと。『ベルリン 二つの貌』『月長石』『異性の客』、アレステア・レナルズの諸作も分厚かった。逆にそんな分厚かったっけと意外だったのが『長い別れ』『ニューロマンサー』『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』

新刊

小山正の『破れざる旗の下に』は先月号でも紹介され。純文学系作家とは聞いていたけど、全知全能の<神>も登場し、登場人物らに影響を及ぼすらしい。俄然面白そう。そして今風の技巧が成功しているみたいな『アルバートンの天使たち』、先月号の記事で周冬雨を覚えた『少年の君』(確かに『白夜行』みたいだ)も良さげ。ちなみに三橋曉は「周冬雨を知るための8本の映画」。どんだけ好きやねん。
橋本輝幸は『理想の彼女だったなら』の評で「アウティングされるシーンもあるので注意」。どういう意味なのだろう? ショックを受ける読者もいるから注意ってこと? 本当にわからない。
大森望は『鹽津城』『まるで渡り鳥のように』『暗号の子』…と軒並み高評価。SFはほんと夏の時代。
梅原いずみは「書楼弔堂」シリーズの完結を祝う。振り返ると自分の読書人生で、京極夏彦は「巷説百物語」共々リアタイできたのになぁ…、残念。温かそうな『神様の次くらいに』、その反対(?)の『死に髪の棲む家』はどちらも面白そう。
久田かおりの紹介する『ふたりの窓の外』も温かそう。
東えりか、杉江由次と続けて激推しは『対馬の海に沈む』。誰にも迷惑をかけず、誰も損をせず、弱く、せこく、ずるい人間と農協。叫びだしたくなる。『傷の声』の作者は自殺するのか…?
松村眞喜子の『すごい短歌部』の作者の、論理的な推敲とか興味あるな。

連載

宮島未奈は涼宮ハルヒを読んでなくて成瀬を書いたらしい。
古本屋台のプログレ専門のおじさんの佇まいが良いなぁ。
穂村弘が巨大な古着屋を徘徊する姿が浮かばず、ちょっと驚く。また、年齢を感じる時として、古本屋の最下段の棚を挙げるが、まだそこまでは来てないな。
和氣正幸はパン屋の本屋。本屋やるならこれだよな。これまでの彼の連載で取り上げる店はどれもコンセプトは理解できるものの持続可能に見えなかったので。
山脇麻生は『若草同盟』。私の認識も、昔の同棲物語には愛の本質や不毛が出てくるのかな、くらいだけど、令和の同棲物語はリアルで生きづらく苦しそう。
小山力也は神保町の@ワンダー。一番好きな店。死ぬ前には全蔵書をここに持ち込みたい。
津野海太郎はKindle以前の電子書籍の話。面白すぎ。マルチメディアを指向して色々考えていた所で、グローバルスタンダードにビジネスで負けてしまう。円城塔も言っているように今の電子書籍(とそのビジネス)が理想の完成形ではないし、もっとがんばれたのではとも思うが、結局は「紙と印刷」人間だった、と。あぁ、この言葉は私も使いたい。松田哲夫が本を破壊出来ないところはまったく同感。私も無理。下衆な話だが内澤旬子は『季刊・本とコンピュータ』で河上進(南陀楼綾繁)と出会ったのかしらん。
栗原康の紹介する『新大学原論』はなるほどなぁ。大学無償化は、世界大戦中、大学に行ける金持ちだけが徴兵回避できた、貧乏人は必然的に徴兵されたことへの対応だと。つまり、反戦だと。さらに大学は不在で、虚言で、どうとでもなると。大学の文系学問は不要と言われたときに感じるモヤモヤ感への一つの回答の気がします。
藤野眞功はライターのウェブメディアへの移行に絡めて、100年前、武内桂舟が陶器画の職人だったものの輸出に伴う濫造で辞すことを紹介。
鏡明はベスト10の取りこぼしとして『透明マントのつくり方』『「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた』、ブルータスの特集「夏は、SF」。最後はSFの拡散を喜びつつ、雑誌メディアでSFかよと皮肉。本文とは関係ないけど、個人的には大森望が凄すぎて後継者が気になる。
円城塔は『パーニニ文法学講義』。文脈自由文法だか何だか得体の知れない凄さは伝わった。
べつやくれいはスヌーピー。傑作集の1巻を取り上げ「スヌーピーはまだ犬だ」が可笑しい。
堀井慶一郎は読む落語本。でもカバー絵は傍の武部本一郎ww 堀井はトルストイだったらおちゃらけるところだが落語になるとかなり真面目。演者や演目の名前で遊んだりしない(まぁ、遊ばられるとわからないってのもあるけど)。今月で連載終了。途中呆れた回もあったが総じて面白かった。やっぱり最後は愛ですね。
森中央は田中慎弥の10冊で「躊躇うことなく踏み出してほしい」。紹介を読んだけど、やっぱり躊躇うよな…。

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