本の雑誌 2025年1月号 (No.499) だし巻き真剣勝負号 / 本の雑誌社 / 1000円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし
特集: 本の雑誌が選ぶ2024年度ベスト10
1位は『越境』。ストーリーだけ聞けば冒険小説だけど、芥川賞作家による「文學界」連載作。よさげ。2位『自立からの卒業』は先月号でも紹介されてた引きこもりの話、3位『孤独への道は愛で敷き詰められている』は西村賢太ロス者が歓迎する私小説。うーん、どちらもテリトリー外。そもそも北上次郎の勧めるダメ男小説に興味がありません。4位『バタン島漂流記』は面白そうだけど、これは全編リミット超えで辛そう。
SFは『コード・ブッダ』。読みたい。『ロボットの夢の都市』は魅力的だけど予定調和気味か。鏡明は大衆が『侍タイムスリッパー』のSF要素を受け入れたことに驚き、喜んでいて、たしかに嬉しいことだけど、今更驚くようなことかなと。ドラえもんが受け入れられている段階で、SFのお約束はほぼすべてOKなんじゃないかな。
ミステリーは『破れざる旗の下に』を池上冬樹が絶賛。これも元純文学作家の手によるもの。そういう時代なのか、流行なのか。『両京十五日』は『三体』みたく何でもありなんでしょう。キング『ビリー・サマーズ』は「私のベスト3」でも評判が良くて期待。
時代小説では『バタン島漂流記』が再度のランクイン。『火山に馳す』はシンプルに感動できそう。
現代文学では『恐るべき緑』。実在の科学史をベースにしたフィクション。チリの作家だが、望月新一も登場するらしい。
ノンフィクションは『技術革新と不平等の1000年史』。革新があったのに何故人類繁栄につながらないのかという本。筆者が体験した回転寿司の現状と絡めて面白い。『再生』は西鉄高速バス事件の被害者の作品。『評伝クリスチャン・ラッセン』共々、ここらはちょっと読んでみたい。『力道山未亡人』も良さげだけど、力道山の人間的にいい話を聞かないからな…。
エンターテインメントは『方舟を燃やす』。実質的にはこれが本の雑誌の2024年度ベスト。すっかり忘れてたけど、主人公の一人の飛馬は1967年生まれと近いのでした。それだけでも読まねばな。その他、高頭佐和子の10作はどれも面白そう。
「私のベスト3」では岸本佐知子が推す『缶詰サーディンの謎』、石川美南の『マーリ・アルメイダの七つの月』みたいなよくわからない話が楽しそう。でも『いろいろな幽霊』『すてきなモンスター』にときめかないのはなぜか?
おすすめに何回か登場すると興味が出てくるもので『偶偶放浪記』は岸本佐知子と杉田比呂美。
クラフト・エヴィング商會が誰にも教えたくなかった『妻の温泉』を春日武彦がやっと復刊と。こういう凄い人たちのやり取りを見られるのもこの号ならでは。
照山朋代の『ボールアンドチェイン』に対する、「安易にラベリングして「問題」として語るのではなく」という表現が良かった。
新刊
ミステリーではグリシャム『告発者』が固そう。霜月蒼も挙げています。『マット・スカダー わが探偵人生』は追いかけてたら面白いんだろうけど、パーカーの追いかけで精一杯でした(全部買ってあるけどまだ読了してない)。
SFは『無限病院』のノリに付いていけるかどうか。
連載
古本屋台のミュージシャンがリアル。金銭のためだけで買い取りを頼んでいるわけでもなさそうで、そこがまたツライ。白波のラベルは懐かしいが、焼酎自体はきつくてちょっと苦手。
穂村弘は再読までの最適時間。「記憶が蒸発して、限りなく初読に近い再読」。わかる、わかる。まさにデューンもダークタワーもそんな感じで読んでいます。
♪akiraは司祭が挑むコージーミステリの『殺人は夕礼拝の前に』と、模擬選挙のために銃の入手を頼むところから始まる映画「お坊さまと鉄砲」。どちらも気持ちよいエンディングを迎えられそう。
urbanseaの紹介する週刊大衆の編集長の言葉は当たり前だけど改めて重要。「是非、1年に1冊くらいは雑誌を買っていただきたい」
津野海太郎は松田哲夫と『ちくま文学の森』。私がこのシリーズを知ったのはもちろん「本の雑誌」で、ちくま文庫の日本文学全集共々全部買って、全部読みました。今も家のどこかにあるはず…だけどな。最近見ないな。捨ててないといいけど。津野の最後の一節に「思いきってやればできた時代」と回顧する寂しさと切なさ。当時、普通のこと、永遠に続くことと思い込んでいました。
三橋曉の映画と小説のビミョーな距離は「少年の君」。映画も小説も面白そうだけどまた辛そう。
栗原康は『近代を彫刻/超克する』の紹介で、戦前の軍人の銅像も、戦後の女性の裸像も上からの押し付けと。なるほどなとちょっと思った。
服部文祥も茂木健一郎もシンギュラリティに懐疑的。データと計算の先にクオリア(質感)は生まれないと。脳内の神経細胞間での出来事なので観測可能な現象のはずなのに数値化できないと。直感的には賛成するものの、残念な気も。
藤野眞功の紹介した坪内祐三の文章で、安原顕は村上春樹らの原稿を売り払いつつ、けなしていたことを知る。なかなかひどい人間だな。
岡崎武志の古本屋店頭の話はつらい。岩波書店の児童書10冊くらいを高齢の女性が売りに来て、提示された金額が10円。逆に、1976年刊の3900円、初版、函入り、帯付きの『自選 和田芳恵短編小説全集』が店頭均一棚で100円。つらい。
円城塔は他言語習得の話が、何をもって言語をマスターしたと言えるのかでつまずく所から。
風野春樹の『ウマの科学と世界の歴史』は短い紹介なのに知らないことだらけ。競走馬のクローンは禁じられているがポロはOKで、全頭クローンのチームが制したことがあるとか、すべての馬は4200年前のドン・ヴォルガ川流域に行き着くとか、現代に野生の馬はいないとか。私にも馬は遠い。高校生の頃、道路を馬が歩いていてその大きさに驚いたのと、実家のそばの少し広い農場で馬が飼われているのを見たことがあるくらい。
タイポ
p.55 3段目 私している -> 渡している