別れを告げない – 二人の心の表面だけを撫でさせられた感じ

投稿日: カテゴリー

別れを告げない / ハン・ガン / 斎藤真理子訳 / 白水社 2500円+税
装画: 豊島宏尚 ≪オーロラ群島I≫ 装丁: 緒方修一
작별하지 않는다 by 한강, 2021

家族や職場と別れ、自殺を考えている作家キョンハに、友人のインソンからメッセージが届く。済州島に住む彼女は、木工作業中の事故で指を切り落とし、ソウルで緊急手術を受けているという。病院を訪れたキョンハに、インソンは急いで島に行くよう懇願する。

ハン・ガンのノーベル賞受賞を聞いて戴いたまま積ん読していた本書を慌てて読みました(他に自分で買った『菜食主義者』もある)。冒頭、済州島四・三事件の紹介があり、先に訳者紹介の事件の解説部分のみを読んだら、凄惨な事件が隣国で起きていたこと、そしてそれを私がまったく知らなかったことに驚きます。
で、身構えて本文を読むと、生きる意味を失ったキョンハの私小説風の語りのギャップに戸惑います。そこから病室、済州島、インソンの工房までは一気にストーリーとして読ませるものの、二人の内面に入って行けず、また途中に繰り返される雪片や、木、指先の感覚、鳥のイメージも弱く、表面をなでるだけの読書が続きます。後半の生と死の境界のシーンにもあと一つの魅力がなく、最大の読みどころであるはずのインソンの母親のエピソードは整理が足らず、材料そのまま感。強さが感じられず残念。弱さと怯えをを描いた「布団の下に鋸を置いて寝る」ような具体的な表現にもっと触れたかった。

結局、訳者あとがきの事件のインパクトを超えられないまま、終わってしまいました。何なんだろうな、この二人の心の壁は。

ところで済州島の不幸な境遇と、それ以前に存在した島の芳醇な歴史や背景を思うとどうしても沖縄を思わずるを得ず、実際、台湾とともに何万人も死んだ「孤立した島」と出てくると(p.122)、やるせない思いになります。どうして平和な楽園のままでいられないのかね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です