本の雑誌 2024年9月号 (No.495) ひやおろし待ちわび号 / 本の雑誌社 / 900円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし
特集:河出書房新社を探検しよう!
今日まで河出書房新社を新興の出版社と思ってました。特集を読みながらもベストセラーが『なんとなく、クリスタル』『サラダ記念日』『蹴りたい背中』で、海外文学も真面目そうで、縁遠いなぁ…、と。そしたら読者アンケートを読んでて思い当たり、書棚を見ると『星野之宣』が文藝別冊、『吉田戦車』がKAWADE夢ムックでした。
座談会を読むと働きがいがありそうな会社です。枠を超えて企画を提出し、本を作れるなんて夢のよう。
「J文学」を作ったのは佐々木敦。この頃 J-POP や J-XX をよく見ました。「文藝」を認識したのも同じ時期。小説誌とサブカルが融合した「Quick Japan」的な何かという認識でしたが、老舗だったのですね…。
佐久間文子は名編集者二人を、文化復興のしんがりの坂本一亀と、その「終わり」を見ながら「はじまり」を作った寺田博と紹介。とてもいいエッセイです。
新刊
ミステリー界隈は、柿沼瑛子の『白薔薇殺人事件』も、酒井貞道の推す日本の作品も、宇田川拓也の『あんたを殺したかった』も、凝りまくり。
それは石川美南の海外小説もそうか。店頭で『百年の孤独』と見間違えた大部の『魂に秩序を』は勝手に政治小説と思ってたら、こんなぶっ飛んだ話だったとは。『ソフィアの災難』も面白そう。
大森望では『ビブリオフォリア・ラプソディ』が推薦文句通り良さげ。新潮文庫nexは、内容もカバーもラノベっぽくって楽しそう。『天才少女は重力場で踊る』
連載
今月の書店は隣町書店。荏原中延にそんな本屋があったとは。こんど機会があったらコーヒーも込みで行ってみよう。石川春菜はシェア型書店を3つ紹介。神保町の PASSAGE は知ってましたが、今村翔吾の「ほんまる」、高円寺の「そぞろ書房」は知らなかった。近くに行ったら寄ります。
栗原康は「いつも心に盗んだバイクを」と『聖書』のイエスの話。既存の支配体制に異を唱える異端児と捉えれば確かにな。最後は「中二病は信仰」&尾崎豊でまとめます。連載タイトルが「この支配からの卒業」。
「言論の自由は妨げられてはならない」というのが藤野眞功の「聖なるかな、どいつもこいつも」と第する『レニー・ブルース』伝。たとえそれが二流、三流であっても。本当にそう思います。
「やはり「百歳まで」は無理だよ」と弱気なのは津野海太郎 85歳。『サブカルチャー創世記』も『百歳までの読書術』も面白かった。浜本茂は目利きだな。しかし小説が楽しめないとか、きついよなぁ…。
で、続けてのよしだまさし 66歳は、21歳からの読書冊数の変遷。読書時間が減ったからと毎朝30分、ドトールで読書する姿勢が素晴らしい。そんな人が結婚よりも子供よりも、加齢が一番読書の敵とは身も蓋もない。老眼もだけど集中力の低下も大きいよね。この2本を並べるあたり、編集部もわかっている。
北原尚彦はリストから沼にはまる話。わかる! 私もマクリーンの文庫版『ナヴァロンの要塞』末尾のリストに登場する「海外ノベルス」の意味がわからず悶々としていましたから。マニアやオタクの素質に「リストが好き」「リストを自分で作る」がありますね。
服部文祥は『森の鹿と暮らした男』。男の森暮らしは7年だったらしく、なんで? と思ったら自分で読め、と。上手い読書ガイドだ。ちなみに沢野ひとしのよると『森の生活』は2年らしい。彼でなくてもそんなんで威張るなよとは思います。
円城塔は『Rust で作るプログラミング言語』。「Software Design」にあってもおかしくない、どスレートの紹介。
藤岡みなみは「風景と時間」として長田弘『なつかしい時間』。私は仕事や日常に追われていて年々、気分転換が難しくなっているので、この本を持って海に出かけられる筆者の心の大きさが羨ましいです。
風野春樹は仏教天文学。忘れられた学問ですが確かに、だからこそ魅力的だわ。
「今月書いた人」で青山南が1ページ目にいる!そのエッセイ「『グッドナイト・ムーン』の怪」は30回目。不思議とどの回も面白い。