本の雑誌 2022年12月号 (No.474) / 本の雑誌社 / 700円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし
特集は「「黒と誠」の謎と真実!」
『黒と誠~本の雑誌を創った男たち~』の発売記念特集号。底本の『本の雑誌風雲録』も『本の雑誌血風録』も読んでいるので、目新しい話はないと思っていたのですが、「本誌助っ人ダイナマイトコンビ対談!」はそれを補うような当時の空気感を伝える内容でとても良かったです。アルバイト代が出ないのに、何となく本の話が出来て楽しいので集まっている様子に、学生時代の映画研究部の部室を思い出しました。福井若恵のイラストのタッチもいいですね。
♪akiraのハリー・クレッシング『料理人』は良さそう。ある日やってきた男がコックの職を得る。その腕で人の心を掴んでいくが…という話。ハヤカワ文庫NV(ミステリ文庫でなく)だから、スパイや陰謀が絡むのだろうか、気になります。
大槻ケンヂは『夜の夢こそまこと 人間椅子小説集』(広告にもあるカバー絵がいいなぁ)内の伏せ字「XXXX」について、「乱歩と並ぶ作家の代表作に出てくる台詞」と紹介し、「今月書いた人」で「Y・S先生の『XX島』」とまで気を遣っているのに、その前の椎名誠が「キ○ガイ」だから台無し。
日下三蔵は屋外に設置した物置に本を置いている。湿気は大丈夫なのか? と心配したら、やはり「結露防止」というものがあるとか。へぇ。ところで寝室においている本は湿気を吸うらしい。気をつけたい。
川口則弘は東京新聞文芸記者の平岩八郎と頼尊清隆のバディもの。いい話の連続。「友人」の一語を見つけるまで苦労したことでしょう。丁寧な取材が伺えます。
V林田は『事故の鉄道史』。関東大震災に列車が巻き込まれていたとか、トンネルを利用して旧日本軍の火薬を処理しようとしたら失敗して村ごと吹き飛ばしたとか、そもそも英国での鉄道開業その日に事故が起きてたとか、知らない話ばかり。
宮田珠己は「さらばロト7」。執筆のためのネタでない、真面目な取り組みに好感はもったものの、背景のコロナ禍における生活や精神の縮こまりが生々しく、真面目にロト当選を狙う姿勢は終始、虚しかった。それは本人が一番感じてたことだろうけど。次は本来の、のほほんとした中に鋭い考察のあるエッセイを期待します。
平松洋子はそば屋「芭蕉そば」の紹介。会社の近くだから行ってみるか。小名木川とか萬年橋とか初めて意識しました。営業は5:30~14:00。行くなら午前中か。
石川春菜の紹介は『インフラ写真集~電気篇~』。これは単純に面白そうなので実物を見てみたい。
べつやくれいは『土偶を読む図鑑』。どうにも解釈の仕様がないと思っていた遮光器土偶はサトイモの精霊説とか。おぉ、こういうシンプルで明快で説得力のある説が出てくるもんだな。
風野春樹は話題の『統合失調症の一族』。副題に「遺伝か、環境か」とあるが、その両方であることが、この一族の遺伝子から判明していくのだとか。厳しい読書になりそうなので多分読まない。
読み物作家ガイドは神林長平の10冊。『敵は海賊』『戦闘妖精・雪風』は何度も書棚で見かけたものの読まないまま。ほんと日本SFには冷たいな、私。
今号で連載終了の方が多数います。「今月の人」で、きっちり挨拶しているのは今回が初めてじゃないかな。いつもは知らないうちに消えていて寂しいの良い趣向です。
田中香織 – 最先端のいい感じの漫画を紹介。ウェブ連載が多かったのは時代だな。
下井草秀 – マイナーマガジンの広さ、深さを紹介。
宮田珠己 – やっぱり当たらなかったなぁ、ロト。
江部拓弥 – ちょこちょこ面白いエッセーがあった。鰻屋とか宝くじとか
新刊紹介の吉野仁(海外ミステリ)、藤ふくろう(海外小説)、古山裕樹(国産ミステリ) は、取り上げた本の中身の好き嫌いはあれ、どの方も読ませどころを的確に切り取る上手い紹介でした。高頭佐和子(恋愛小説?) も紹介自体は素晴らしいけど、時折交じる自虐っぽい吐露が苦手。リアル過ぎるからかも。