書き下ろし日本駄作コレクション ださく / 500円 / #駄作を書こう選手権
昨年の文学フリマで入手した「意図的に駄作を書く」という、読者として面白く読めばいいのか文句を言いながら読めばいいのか悩むコンセプトの本です。
さまざまな趣向がありましたが邸和歌が素晴らしく「駄作」でした。
トキオ・アマサワ「改造紳士スペルマ」
陳腐な設定や、あるあるな表現を4ページに詰め込んだ作品。湖畔の別荘のパーティからラストの吠える犬たちの声まで、容赦ない場面転換と猛烈な疾走感で笑わせてくれます。
井守千尋「駄作請負作家 三郷ユーリ」
作家用AI「美女かける」を使ってゴーストライターをしている三郷ユーリに、50巻以上も続く電脳剣術シリーズの最終巻執筆依頼が来る。駄作を量産する作家とAIが行き着く先が、弾道ミサイルのコードや2万年に及ぶ2次創作ってのがバカでいい。
名倉編「名倉編。駄作を書く」
思考の流れをそのままキーボードに叩きつけた作品。の風をしていながらどこか計算を匂わせ、さらにそれをも明かす。「こうなるよなぁ」と思いながら読んでいたら流れの中に小説としての存在や批評の意味が浮かびあがって来て驚きます。好きな作品。
沖田征吾「ああ、それはインフルエンザですね」
医者と患者のとっちらかった会話が続きます。作者の狙い通りに、わざとディックっぽい盛り上がりを避けていますが、それでも最後はサービス精神が出ましたかね。
仁科星「嫦娥」
レギュレーションを無視した無茶苦茶面白そうな話のイントロだけを差し出し、最後に「つづかない」として駄作化…なのかなぁ…。これは別のところで続けてほしい作品。
天王丸景虎「射精す・ゲマイネ」
人間の魂の重さが21gなら童貞の重さは何gなのか、を下敷きに展開される「読者にガッカリ感を与える」はずの作品。これも普通に面白くなるんじゃないのかなぁ、というところで終わる。
びている「東の果て、空の向こう」
北海道の東端で卒業を控えた女子高生の会話に地元から出ていく人、残る人の思いが淡々と語られます。普通に面白い。タイトルで「雲のむこう、約束の場所」みたいと思ったら似た感じでした(レビューによると新海誠は関係ないらしい)。
麦原遼「一生のお願い」
これも作者コメントとラストがなければ、普通に面白い作品。しかもそうか、そう読むのかと発見しながら最後まで読むとタイトルの意味が分かる仕掛け付き。始点(1)と(2)は物凄くいいと思うのだが。
遠野よあけ「転生してもきっと俺はイカ墨パスタを忘れない」
黒塗りの高級車にはねられて死んだ氷川友則は暗闇の中にいて、激悪なイカ墨パスタを思い出す。
うーん、普通に面白い。しかも完成している、訳分かんないけど。駄作じゃないと思います。
邸和歌「戦場の彼方」
戦いのさなかに黒見康は家族を一人ずつ想う。父親と母親と姉と兄と妹と弟と犬。何の特徴もなく盛り上がらないのに延々と続く家族紹介と唐突なエンディング。素晴らしい、これは狙い通りに決まった「駄作」です。1位だわ、これは。
各レビュー+駄作論
上のコメントを書いたあとで答え合わせをするようにレビューと駄作論を読みました。意図的に仕掛ける技巧とそれに気づく読解力。作家は凄いね。特に遠野よあけの明快な解説はよかった。「普通に面白い」なんて言ったら失礼だったのか、難しいわ。
おしまい