東京オリンピック 2020 新種目。

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東京オリンピック 2020 新種目。 / 破滅派 / 500円+税 / 2019

作家が締切りに追われるように読者も次号に追われます。去年の「東京オリンピック 2020 新種目。」破滅派 2019 を慌てて読了。
タイトルから想像される軽めの笑いもありますが、むき出しの怒りや絶望やドラマやと全篇驚くほどに文学。中身は高井ホアン個人誌の趣もあり実際、作品も良いのですが、一希零が特に良かったです。

高橋文樹「TOKYO UNDER WATER」

大腸菌ウヨウヨのウンコ水をペットボトルに汲んでみても、東京湾でサーフィンしてみても何も起きない。女川原発のときのような行動や思考が停止した虚脱感もない。実はすべて最初から予想していた、なるべくしてなった「無」だったのではないか、ちょうど東京オリンピックのような、と邪推します。

藤城孝輔「健全なる心身に宿る健全な死 – フリースタイル自殺」

滑らかな語りを気持ちよく読んでいると、結末の希望に驚きます。新種目、男子「切腹」女子「フリースタイル自殺」。有望選手は予選に出ると死んでしまうので本戦からの出場。お笑い要素しかないはずなのに、ラスト「生きたい、生きたい」が強く訴えてきます。素晴らしい。冒頭からいきなり裏切られました(いい意味で)。

大猫「蒙御免大相撲東京オリンピック場所」

バッカ会長の一言で、すべての種目に相撲要素をいれることになったオリンピック。閉会式を襲う天変地異からの展開が面白く、憲法改正やら天皇論やら色々含んでいて愉快

佐川恭一「4×200メートルモッコリレー」

洛南高校体育祭伝統の「モッコリレー」を誰もが期待する「モッコリレー」にアレンジして小説化。実況と解説の二人の会話は目の前で漫才が行われているかのようにリアルで猥雑で最高。そこに学歴ネタを絡めて大笑いさせてくれます。

Malena Salazar Macia / カメイトシヤ訳「レースボール:分かち合う心」

障害のあるアスリートが頭脳を、健常者が機能性を担当してアバターに没入し、仮想世界でボールを運ぶレース。スタジアムに入ったり機器に接続された際のカズオの不安がうまく描かれているため、後半アナとの信頼につながりに説得力が出ます。

一希零「男子帰宅自由形」

部活動を行わずにただ帰るのと違い、帰宅部は目的を持って家に帰る。どこからでも帰る。東京オリンピック出場選手として、愛する母国のために、全力をつくして帰る。この寓話に込めた作者の意図がわかった瞬間、唸りました。タイトルで出落ち感満載だったのに感動。これはいい小説。

工藤はじめ「男子貝合わせ/女子衆道」

金閣寺で行われるオリンピックの前哨戦に日本から籠池泰典と加藤鷹、広瀬すずと愛子さまがそれぞれ登場。本当の(?)貝合せが行われます。加藤鷹がはまぐりで潮を吹かせて給水しようとする様がバカ。
P.31 下段左から L.6: 安倍主張 -> 安倍首相
P.32 下段左から L.11: ジャーパン -> ジーパン

髙井ホアン「借り得ぬもの」

借り物競争オリンピック日本代表の相馬ルキオはハーフ。日本人の日本人による日本人のためのオリンピック日本代表メンバーとして金メダルを目指す。全編を貫く無神経な日本人と選手村の中の多様性の中でのみ得られる平穏。祭り上げられる草井宮満子内親王を同じ枠組みに閉じ込めた視点に驚くと同時に納得します。
P.39 中断左から L.6 後進国にに -> 後進国に

諏訪靖彦「僕は持て余した。小さなそれを、」

的に向かって3回射精しその命中精度を競う「ラピッドファイアピーニス」に出場する安芸竹城、モロゾフ、ゴクミ、コーチの DaiGo。全員しっかりキャラ立ちさせ、おバカな話を丁寧に描き、ラストを決めます。やられたわ…。

牧野楠葉「新しいドーピングその1 – 地獄を生き抜くためのライフハック」

楽しみのためでなく、人生や小説のためにやってるジャンキーは厳しい。止めると死ぬので止められないが、結果死ぬまで飲み続けるんだから、どっちにしろ最後は死。まぁ、誰でも全員死ぬから一緒か。明らかに数字や論理に正確な人間が、「外」にある意識感覚を持つ恐怖はきついです。

松尾模糊「笑ってはいけない五輪24時」

2019年の時事ネタお笑いネタが詰まった作品。すっかり読むのが遠くなってしまって、東京オリンピック共々「あー、あったねぇ…」という感じで読みました。積ん読しててすみません。

多宇加世「炊飯釜タイマー」

あまりの虚無感に心がざわつく作品。好きです。私は、電気炊飯釜タイマーセット競技の最年長選手。家電量販店やショッピングモールの電気調理器具売場で練習する。何もうまくできず病気がち、電動車椅子の母、炊く米がなく炊飯釜を空焚きする日々、年少のライバルたち。途中の空白が過ぎて最後がハッピーエンドに読めません。

波野發作「オリンピック新競技全史」

「オリンピックで何が行われるかは、すべて金次第である。」と身も蓋もない。追加された新競技と追加されそうな(?)競技を丸っとまとめた作品でバラエティ番組のネタ帳として有効そう。

瀧上ルーシー「脱衣麻雀」

脱衣も下着も裸も出てくるのに途中ですべてどこかに行ってしまうほどに真正面からの麻雀小説。ルールを知らないので配牌の意味も作者の意図もまったく理解できませんが、それでも読ませるし途中からエビスヨシオの解説が真面目になるのも、ワダアキエのラストもかっこいい。

Juan.B「閉会式」

「借り得ぬもの」のルキオは銅メダル。2週間ちょっとの大人の小学校が終わり、閉会式では混血完全自由形に挑む。周囲との軋轢が衝突に代わった瞬間、巨大地震が会場を襲う。混乱の中、誰かの生首を掲げて微笑む草井満子、始まる障害者の祭典。狂気の「破滅派」をがっちり締めました。

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