おすすめ文庫王国 2016 – 書店員の課題はライト文芸への意識改革

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本の雑誌増刊 おすすめ文庫王国 2016 / 本の雑誌社 / 760円 + 税
表紙イラスト 長谷川仁美 / 表紙デザイン 呉事務所装幀会

ベスト10を決める編集部座談会はいつも誰が誰か分からなくなるので今回はメモを書き参照しながら読んだら面白かったです。一々名前が出てくるところを探す面倒もなく、素直に最初からこうすればよかったわ。

営A: 杉江
営B: 浜田
編A: 松村
編B: 宮里
経理: 小林
発人: 浜本

で1位と2位がどちらも良さそう。1位『慟哭の谷 – 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件』はサブタイトルがすべてですが、その前の「慟哭」の部分が特にすごそうな印象。2位『さようなら、オレンジ』は本誌での紹介でも興味を引いた作品でした。しかし本の雑誌は『64』に冷たいな。
オリジナル文庫大賞は『ビッグデータ・コネクト』。意外ですが機械が苦手な北上次郎がずっと推しているんですよね、きっと門外漢にもよく分かる説明なのでしょう。人によってポイントが違うところも評価が高い部分です。
ジャンル別ベスト10では国内ミステリー、SF、ライトノベル等の技巧的な作品が目立ちます。中でも宇田川拓也の紹介がうまい国内ミステリー『黒百合』と『墓頭』がず抜けている感じ。騙されてみたいです。

有川浩の文春->新潮->講談社ってのには何かあるのか、ないのか。本屋大賞辞退のとき編集者と揉めているとか報道があったけど関係あるのか、ないのか。業界の人は常識かもしれませんが、解説は欲しい所。

大森望、茶木則雄、吉田伸子の世代別お勧め。ふざけた終わるイメージの強いメンバーですが実際は高レベルの鼎談が多く、今回もそう。一々うなずける内容です。十代のときに本格ミステリーの名作、とかね、確かに。

さて今回一番驚いたのは丸善お茶の水店でも三省堂神保町店でも文庫の年間売上1位が『その女アレックス』だということ。2015年後半がルメートル祭になってたのは知っているけどそこまでとは。翻訳ミステリーがねぇ…と。まぁ、嬉しい。

一方で、繰り返し言われていて残念なのが文庫「さえ」売れなくなったという寂しい現実。ここらは書店員対談で詳しいですし、実際私も昔みたいなバカスカ買わなくなってます。書店員さんがお客さんを分析できていないとは思いませんがね、単に経済的な問題であって。

ちなみに対談で二人が悩んでいる背景には、ライト文芸の流れに書店員が付いて行けていない現実があります。分かります、分かります。別にラノベを馬鹿にするわけでもなく、その面白さや読者層の広さは理解していても、新潮社が『いなくなれ、群青』を出したときに強烈な違和感を感じましたし、萌絵大好きな私でも「なんだこんなもん」って思いましたから。

ところがこれが普通におじさんに売れ、富士見L文庫、集英社オレンジ文庫、朝日エアロ文庫、講談社タイガ等と続くと、これまでの小説や本の概念とか、読書のスタイルとか根本からの意識改革が必要で、これ、電子書籍以上に難しいと思います。「又吉の宣伝帯」くらいはまだ分かるんだけどね…。

笑ったのが三省堂の順位。並んじゃいました。
57位 君たちはどう生きるか
58位 少しだけ、無理をして生きる

今回「本の雑誌社の本 2015秋・冬」という挟み込みの広告が入っていました。本誌1月号の帯や、カラーページ「本棚が見たい!」の継続等を含め、一時の倒産の危機に比べれば多少余裕が出てきたのでしょうか、喜ばしいことです。形式は早川書房のに似てます。わざと?

 

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