こころ / 夏目漱石 / ポプラ社文庫 / 700円+税
カバー絵 さし絵: 小島直
まだ恋愛を知らずその前段階として年長の先輩に勝手に憧れる前半の「私」と、その憧れの対象者である「先生」が「私」の頃に起こした事件の顛末。
新聞連載小説という性格からか、翌日の連載分を期待させるスピード感ある展開です。さほどこれみよがしでもなく引っ張る先生の秘密、逆に今死ぬか、もう死ぬかと引っ張るだけ引っ張りそこで切るかととても驚いた(いい意味で)中盤のラスト、そしてお嬢さんを巡る K との関係。とても面白く読みました。
途中の小ネタもいいです。例えば卒業できて結構、という父に誰でも卒業できると返す私。が、父は自分が生きて要られたことに対しての結構であることを伝え、「私」をはっとさせる。ここらの視界の狭さには心当たりもあり、私もはっとさせられます。
ただ逆にこのネタも含め、悩みが現代と変わらないというのもありますが、扱うテーマはいたって平凡。時代性を加味したとしてもつまらない。大学生が書いたのならともかく、評価の決まった文豪が47歳でこのレベルか、と。明治天皇の崩御と乃木大将の件も時代性として取り込んだ以上のことが感じられない。こうした面でも新聞読者に合わせたのでしょうね。
そこらに転がっていたポプラ社文庫ですが、絵は残念なレベルでした。その関連で言うと思い出されるのが『めぞん一刻』でのジョージ秋山風絵による内容紹介。あの「よござんす」って台詞が絵とばっちし合ってて好きだったのだけど、あれは高橋留美子の創作じゃなかったんだなぁ…。