翻訳家の古沢嘉通さん(@frswy)がおもしろいツイートをされていました。
十年後、自分でセレクションするタイプのSF系翻訳家は、小川隆さん(1951年生)、若島正さん(52年生)などは、七十代、ダーコーヴァ訳者たちは六 十代で、選んで訳すペースは確実に鈍るはず。いま二十代のSF翻訳志望者は、十年後から三十年間は、「おらが天下」になる可能性おおいに有り。
確かに可能性としてはあるでしょう。ただ、天下を取る前に、そもそもどうやって彼ら若者が前に出てくるのか、どうやって10年生きるのか、現状ではかなり厳しいと思います。
ではどうしたらよいのかを、一読者が考えてみました。
ところで山岸真さんがウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』や、『2312』で話題のK・S・ロビンスン『荒れた岸辺』(大好き!)の解説を書いたのは24歳のときでした。同じ頃、大森望さんがラファティ『イースターワインに到着』の解説を書いてて25歳。それより少し前には酒井昭伸さんが『禅銃』を翻訳されていて、それが28歳。それからずーーーっとみなさん現役第一線なわけです。しかもあとしばらくこの状況は続くでしょう。今、ヒューゴー賞、ネヴュラ賞のダブルクラウンやローカス賞の解説を24歳に任せません。どころか山岸さんが訳して解説してそうです。
と、こう書くと、今、現役で頑張っている方々に「後輩にゆずれよ」と言っているみたいですが、そうではなく、彼らが浅倉久志さんとか伊藤典夫さんとか矢野徹さんとか岡部宏之さんとかが巨匠の作品を抑えている横で新しいジャンルや作家を見つけたように、いま二十代のSF翻訳志望者が目指せる場所があるのではないか、と。新しいSFが生まれているのかもしれませんし、北欧や南米やアジアのSFとかあるのかもしれません。それこそ若者が追うべきテーマでしょう。要は真っ向から勝負しない。
が、次により大きな問題として、セールスの問題があります。
ふたたび、古沢さんのツイートから。
30年まえは、文庫の初版はオレのような駆けだしでも2万部以上あった。年間4冊訳せば400万にはなった。文庫1冊100万円時代。今は、初版6千部と いうのもざらだそうで、定価千円でも6千部、印税6%だと36万円にしかならない。10冊訳さないと暮らせないレベル。7%でも42万円か。
せっかくよい作品を見つけても無名の作家の新人の翻訳作品を出してくれる出版社はないでしょう。しかも仮に出版できたとしても年間1、2冊の出版がせいぜい。これでは自分の好きなセレクションを世に送り出す十年後まで生きていられません。
先輩翻訳者の方々に迷惑をかけずに共生しながら、そこそこセールスも狙えるもの。
とくれば…。
新訳を巡るあれこれ
埋もれた旧作の新訳!!
昔そこそこ売れたけど今は埋もれている作品を、もう一度現代風に訳せばそこそこ行けるのではないかなぁ、と。最近出た『サンリオSF文庫総解説』など良い手がかりになりそうです。また翻訳にちょっと文句が出ていたような作品も狙い目ですよね。
で、一つお薦めするのが『デューン 砂の惑星』シリーズ。一度成功すれば続編やらリブート物が多数あります。幸いカバーが久しく映画版なので、加藤直之さんに描きおろしてもらえれば注目度もアップです。
私が早川書房の編集者なら、迷わず酒井昭伸さん(解説は水鏡子さん)に発注しそうなところですが、そこを今後の人材確保のため、ぐっと抑えて若者に発注する。
いかがでしょうか? あれ、やっぱり先輩のパイを奪っている?
追記 1
その後、古沢さんからは以下の返信をいただきました。あぁ…、残念。
翻訳を生計の手段としなければいいだけでは? いまでも、ほとんどの専業訳者が喰えなくなっているんだし。
追記 2
『デューン 砂の惑星』は2016年1月に新訳版全3巻が出ました。訳者は酒井昭伸さん、解説は水鏡子さん、カバーはカバーイラスト: Sam Weber、カバーフォト: 加藤彰 (K studio)、カバーアートディレクション&カバーデザイン: 久留一郎デザイン室(03 STUDIO) です。
予想があたったわけですが、訳者あとがきを読むとそんな単純な話でなく、「氷と炎の歌」同様の信念と執念と真摯さの訳業。一 SF 読者として作者の思いに近づいて読書できることに感謝するばかりです。
そして若手翻訳者の方々は、やはり真っ向勝負を挑むのは避けたほうが良さそうです…。