羅生門・鼻

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羅生門・鼻 / 芥川龍之介 / 新潮文庫 / 200円 / 1968年
カバー 高松次郎 (以下のカバーとは異なる)

「邪宗門」

芥川がこんな富士見ファンタジア文庫みたいな作品を書いていたのか!? しかもキャラ立ちは完璧。若殿と父との確執のエピソードも良いし、姫とのやりとりも実に今風で、若殿、草食系の俺様キャラです。敵の摩利信乃法師の姫との関係も読めず、結末には電車の中で思わず「うっ」と声が出ましたよ。いやぁ、驚き。

堀川の若殿様は豪放な父、大殿様に似ず、眼の涼しい、心もち口もとに癖のある、女のような御顔立ち。もの静な御威光、繊細で優雅な趣で、詩歌管弦を何よりも喜ぶ。その若殿が、洛中でも話題の少納言の遺児、御姫様に入れあげる。少納言は大殿に殺害されたと噂される人物であり、それもあってか御文や御歌、結構な絵巻やらを御遣すが、姫には会わせてもらえない。或夜のこと、若殿は少納言家の平太夫らの敵討ちにあうが計略をもって逆に仕返し、代償として御姫様に会うことを強い、その後通い始める。

丁度その頃、洛中に摩利の教えを説く異形な沙門、摩利信乃法師が出現する。地蔵菩薩に異を唱える彼を打つ人がいても目に見えぬ剣で神罰を祈り下ろし、一方では多くの病者を癒し信者を増やしている。その摩利信乃法師が平太夫と隠れて会話する様子では古い仲であり、御姫様をも知っている様子。いつしか肩には御姫様のものと思われる美しい薄色の袿がかかっている。

秋風の立ち始めた頃、嵯峨の阿弥陀堂供養が行われる。大勢の高僧らがいる中に現れた摩利信乃法師が阿弥陀如来を罵倒し、対した横川の僧都が呪文を誦して呼び出した金甲神を蹴散らし、水晶の念珠を切る。誇る摩利信乃法師に対して、

その時、また東の廊に当って、
「応。」と、涼しく答えますと、御装束の姿もあたりを払って、悠然と御庭へ御下りになりましたのは、別人でもない堀川の若殿様でございます。

続きは是非、青空文庫でどうぞ。驚くよ。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card59.html

 

「袈裟と盛遠」

盛遠は自分が本当に袈裟を愛しているのかどうかはっきりしない。昔は愛していた気もするが、それは童貞だからだったからかもしれない。3年ぶりに袈裟に会ってみるとそれなりに年をとっているし結婚もしているが、征服欲からか単純な性欲からか、自分の気持がはっきりしないまま関係を持つ。そのうち袈裟の夫を殺す話となり、彼女の真剣さから断りきれなくなる。断れば、きっと袈裟が自分を殺すだろう、と。

 

ここまでが前半で、盛遠の一人語り。これだけでもあるわぁ…って感じなのですが、後半は反対に袈裟側の語りですべてが引っくり返されます。『藪の中』と同じ趣向。何が凄いって袈裟が、3年ぶりに会った盛遠が容姿の衰えた自分に引いているのに気づいている所。

そうです、女は分かります!!

そして男の浅はかさを見据えた上での、自分可愛さから出る復讐の身勝手な理屈。それも意識した上での。これは凄い。

 

あともうひとつ選ぶなら「運」か。こちらは余韻が素晴らしい。

 

芥川はちくま文庫で全集を読んだのですがちっとも覚えていません。新鮮でいいけど、いいのか。

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