西の魔女が死んだ / 梨木香歩 / 新潮文庫 / 430円+税 / 2001年
カバー装画 早川司寿乃
まいは中学になじめず、しばらく祖母の家であずかってもらうことになる。自給自足の生活をしていた祖母は、やさしくまいを迎え入れる。
ってストーリーだけだと、やわらかな少女向けの小説に聞こえますし、実際プリンスエドワード島的な描写や、オブラートにくるんだ生きることへのヒント的なものも出てきて、そのような読み方が普通でしょうが、背景に描かれる現実は厳しいものがあります。
仕事に忙しい父親は結局、何も変えませんし、母親は最後まで祖母を負担に思い、祖母は娘にも孫にも思ったことが伝えられない。まいでさえ誘われた祖母との生活を瞬殺し、大事なはずの時間を忘れてしまう。この2年間の一人暮らしは、鍋さえ重く感じる老いた身には厳しかったはずです。藤沢君のような夢見る男子が、そのまま大人になることはないでしょう。
それでも祖母は幸せな生涯を終えたのだと思います。きっと脱出した魂は銀龍草に着地し、毎年花を咲かせては祖父を喜ばせるのでしょう。そして大きなくなり土地の権利が自分にあることを知ったまいは再開発から山を、朴の木を、銀龍草を守ったのでしょう。それは祖母には見えていたのだと思います。