あなたの人生の物語 / テッド・チャン / 浅倉久志、公出成幸、嶋田洋一、古沢嘉通訳 / ハヤカワ文庫SF / 940円+税
Cover Illustration & Desgin : 岩郷重力+WONDER WORKZ。
Stories of Your Life and Others by Ted Chiang
すごいなぁ。8個の短篇を収録しながらハズレなし! どれ読んでも面白い。しかも凄まじいまでの疾走感と切れ味。でもってSF。評判通りの作品でした。
「バビロンの塔」結局オープニングが作風のすべてを表していました。現実の世界とは時代や文化が少しずれた世界を構築し、そのずれ感を巡って鮮やかな場面と、予想を振り切ったオチを展開する。ここでは天まで届く塔を作る人々の様子がそれ。塔の途中で生活する人々、天に触れ、穿つ工事をはじめる人々。そして天からの水が落ちてくる。その後は何てことのない一発オチですがやられました。
「理解」『アルジャーノンに花束を』+『スキャナーズ』。ちょっと違うか。行き先が言語や精神の創造と並行プログラミングだったりする所に作者の理系センスを感じます。
「ゼロで割る」タイトル通り、数学のゼロに関する話題と「1は2に等しい」証明をしてしまった女性数学者の話が交互に語られる構成。短編集唯一のしっくりこない話。なんとなくわかった気はするものの、よく分からない。9a = 9b。何故? カールが自分の感情を抑えこむから? いい所まで来ていながら正解に辿り着けない悔しい感じ。
「あなたの人生の物語」宇宙人との交流から新たな思考パターンを得るまでの展開と、「あなたの人生」の絡め方が凄すぎて終わった瞬間、呆然。前半の民俗学的なやり取りも面白かったけど、後半のメタ感をわかり易く説明していくところも凄い。
「七十二文字」少しまえに読んだ『ホムンクルス』や、『ディファレンス・エンジン』とかを念頭にスチームパンク的に読んでいたら、オートマトンの話が突然、ブートストラップの話になり、と思った瞬間オチが広がっていました。これもどれだけ凄いか。
「人類科学の進化」25年という歳月にネットの拡がり等を暗喩的に読むことも出来そうですが、ここではニュータイプの出現に対する予想されるドタバタを軽く書き流したと読んでみました。
「地獄とは神の不在なり」盲目的な神への信仰を語った作品。これもオチだけでなく、途中のニールの揺れが凄いし、突然意味もなく現れる天使がもっと凄い。そのアイデアだけで賞賛できる。その上でタイトルに込められた通りのエンディングが凄い。
「顔の美醜について – ドキュメンタリー」期待したようなオチはなく、少し文明批判に過ぎる臭いがしました。ガジェットは面白いけど、ちょっと話題が下衆すぎたか。