ハンニバル・ライジング(上)(下) / トマス・ハリス / 高見浩訳 / 新潮文庫 / 上下共 540円(514円)
カバー写真 広瀬達郎(新潮社写真部)
Hannibal Rising by Thomas Harris
ハンニバル・レクターの幼少期~青年期を描いたシリーズ第4作。リトアニアのハンニバル伯の長男、8歳のレクターは妹のミーシャら家族と共に、ドイツ軍から逃れるため狩猟小屋に避難する。数年後のソ連軍の反撃と侵攻の最中、狩猟小屋での戦闘と続く爆発でハンニバルとミーシャだけが残される。直後にグルータス率いる”ヒヴィ(ドイツ協力者)”らに狩猟小屋は占拠され、その後の飢餓の中、ミーシャは殺され、食われる。
狩猟小屋の砲撃でグルータスらは逃げ、レクターもまたソ連軍に保護される。
終戦後、レクターは叔父のロベール、叔母の紫とパリで生活する。ロベールは、紫を侮辱した肉屋を咎める途中で死ぬ。レクターは肉屋を殺害する。
レクターは医学生となり、叔母の紫と共にパリに住む。失われた記憶を手繰る途中で狩猟小屋を発見し、リトアニアに戻る。そこでグルータスらの認識票を入手し、同時に追ってきたグルータス一味のドートリッヒを殺害し、頬肉を食らう。以後、パリに戻り、グルータス一味に復讐を果たす。
「ハンニバル」での印象的なシーン、アメリカへの飛行機の中で悪夢にうなされるレクターが夢見たシーンの再現から始まる物語は、シンプルな復讐劇。全篇を重く覆うミーシャとの別れのシーンや、ドイツ語のこびとの歌に正直、鬱々としますが、ストーリーテリングは相変わらずうまく、一気に読まされます。逆にちょっとストレートすぎて、アクション映画のト書きを読んでいるよう。「レッド・ドラゴン」や「羊たちの沈黙」にあった深いミステリー味やレクターの圧倒的な魅力は残念ながらありません。ラストのグルータスの台詞も予想されたもので、特にレクターの絶望も胸に迫らず、う~ん。また続編が書かれるのでしょうね。
どうしても触れなければならない日本ネタ。新潮社が事前の書評を制限したのも当然ですかね。で、恐れつつ読みましたが、時代を戦後すぐに置いたのが功を奏し、特に不都合も感じず(さすがに当時でも和歌をやり取りしたりはなかったでしょうが)、逆に小野小町や源氏物語など効果的に使ってあって感心しました。甲冑も映画栄えしそうです。映画版のポスターのマスクだけど、分かる人にはすぐ分かるのだろうか? てっきり「オペラ座の怪人」を思い出してしまいましたが …。