作・演出 / 三谷幸喜
市川染五郎、市川亀治郎、中村勘太郎、市川高麗蔵、松本錦吾、澤村宗之助、市村萬次郎
2006/3/24(金) 東京・渋谷 パルコ劇場
「Snowtreeわたしの頭蓋骨の下 あれれ日記」 (http://d.hatena.ne.jp/snowtree-yuki/) という好きなブログがあります。上品なミステリー好きと伺える、いいタイトルですよね。海外小説の感想を主に読んでいますが、歌舞伎の話もよく出てきて、お好きなんだろうな、でもよく分からないし…、と斜め読みしていましたが、「決闘! 高田馬場」です。
しかし好きな人ってすごいですね。私が万に一つの確率で当たった先行予約に満足したのに比べ(これがなかったら「12人の優しい日本人」みたく、チケットぴあの前で徹夜しなければならなかった)、この激戦チケットを4回も。しかもスタート時には入手に苦労していたはずなのに、どうやったら千秋楽が…。頭が下がります。何度か感想を書かれたようですが、影響されたくないので何も情報を得ないまま当日を迎え(ちなみに3/24昼の部)、感想(これです)を書いてから読むことにしました。
私の歌舞伎歴は、歌舞伎座の一幕見席で数回、京都で1回見た程度と、何となくムードを知っている程度。「○○屋!」とか声を出している人がとにかく羨ましかった記憶があります。もちろん染五郎以外の役者も知りません。ルソン助左衛門が市川染五郎だったのも知らないし、勘太郎のお父さん勘三郎も知らないし(勘九郎なら知っている)、香川照之も知りません。もちろん劇中の一人二役、一人三役も気づきません(爆)。普通の人は気づくらしいし、私も薄々(周囲が笑うので)感じてはいたのですが、終わってから友人に言われて「へぇー」でした。映画「愛と死の間で」(傑作です、是非!)の二役に気づかなかった友人をこき下ろした自分を振り返ってみると痛いです。すみません。ちなみに堀部安兵衛の話だというのも家計図が出るまで知りませんでした。あぁ。という人間の感想です。
終わってみれば面白かったけど、うーん…。
後半のスピーディな演出は素晴らしかったですね(一人二役、三役に気づかなかった奴が何を言う、というのはおいておく。ちなみにWOWOWで後で見ました)。一人ずつ仲間が消えていく展開も、染五郎、勘太郎とのやり取りも、疾走する役者も、幕も。以外と三谷さんはアクション映画の監督もいけるかもしれません。
それに比べて前半。安兵衛が崩れる原因が分かる件の説得力のなさはどうしたものか。そこが中途半端なままなので、叔父の手紙を読んだ後の奮起も今ひとつ伝わってこない。長屋住人のエピソードにも「彦馬がゆく!」のような連続した面白みがない分、安兵衛はいい人だね、で、たいした見せ場もなく、単発に終わる。途中の小ネタくすぐりの連続が雑、その場の思いつきだけの笑いで、ひねりがない分、後に続かない(ZAZの「トップ・シークレット」と「裸の銃を持つ男」の差と言えば分かる人には分かる)。どうにもこうにも「流れ」を感じられません。
ちょうど「オケピ!」も似たような感じでした。途中のエピソードがすべて切れ切れ。なのに最後のナンバーになった瞬間、出演者全員が「このナンバーだけは好きなのよ!」と盛り上がるも、観客は取り残されたまま。今回は後半の演出でその放り出され感はありませんでしたが、それにしても何だかね。もったいない。これだけのシチュエーションがありながら。「君となら!」であった「偶然、会話が成立している!」のような大爆笑ネタはともかく、「笑の大学」のそこはかとないおかしみが前半を通じてながれてもよかったのではないか、と。
役者に目を向けると染五郎は今ひとつ。この人は役者としてのスケール感が感じられない。声もなぁ。振り返ってみるにゲイの侍がぴったしでした。緒方拳にあって緒方直人にないものが、まさに松本幸四郎から抜かれている気がします。スケール感なら松たか子の方が上。それに比べ亀治郎は素晴らしい。まず声がいい。途中の人形劇(不要だけど)のCDの説明であった通りですね。歌もうまいのでしょう。立ち居振る舞いも綺麗で、まさに歌舞伎役者。勘太郎は普通。叔父役の人は役者感があってよかった。おウメばあさんを演じていたのは加藤健一だと固く信じていたが違うのか(笑)。
とここまで書いて、あれれ日記、コメント、関連TBを読む。 … 。 濃い。濃すぎる。恐るべし歌舞伎ファン。何たる記憶力、分析力、文章力。
でも確かに「アラい本」に尽きますね。パンフを読んで歌舞伎役者の真面目さに私も心打たれましたが、三谷さんも、もう少し応えてあげられたのではないかと。