本の雑誌 2022年9月号 (No.471) / 本の雑誌社 / 700円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし
特集は「本を直す!」
服部文祥の東日本大震災で書棚から落として背表紙が割れたお宝本の修理から始まり、パラフィンや自作カバーや改装体験。全体的に悪くはないけど、最近読んだブログの記事の方が、質も量もカラー写真による手順のわかりやすさも上だったんですよね…。
シュゴウ「図書館の資料修復技術を駆使してカピカピになったポイ捨てエロ本を蘇らせる」
https://shugou17.hatenablog.com/entry/2022/05/08/221810
その後の、専門家の喜びぶりもいい、エロ本なのに。
https://twitter.com/shugou17/status/1530163503008391168
末井昭は「戦争絶対反対!!の本」。彼が、毎朝「戦争絶対反対!!」とツイートしているのを見ています。「本の雑誌」の姿勢や意見も見えますね。素晴らしい。
新刊では大森望の五つ星2作品、チャン・ガンミョン『極めて私的な超能力』と、小川哲『地図と拳』、四つ星半の藍銅ツバメ『鯉姫婚姻譚』が、どれも星の数どおりに期待できそう。実際、『地図と拳』は、連載第1回を連載誌で読み、導入の緊張感やリーダビリティに圧倒されました。私が推している同人「破滅派」の斧田小夜『ギークに銃はいらない』も紹介されていて嬉しい。
最初「おぉ!」と思ったのが『オーウェル『1984』を漫画で読む』。すずきたけしのイメージとはばっちり合ったようですが、残念、私は違いました。
『日本人とエベレスト』は、栗城史多に対する山と渓谷社のコメントだけ読んでみたい。
宇田川拓也が先月号でも紹介していて、新時代ミステリー編集者座談会でも紹介されていた、荒木あかね『此の世の果ての殺人』。地球が滅びる数ヶ月前の自動車教習というおバカな設定と、恐らくその状況に絡むであろう殺人事件というのが良すぎる。
♪akira の紹介する本と映画の両方が良さそう。シャルロッテ・リンク『失踪者』と、映画「彼女のいない部屋」。
田中香織が魅力的に紹介するのはカシワイ『風街のふたり』。タイトルから「はっぴいえんど」を感じてちょっと抵抗がありましたが、第1話を読むと静かで落ち着いた絵柄がストーリーにぴったり。話が進むごとに、老人が柔らかく、少しでも幸せるになれるといいなぁ(と言うか、きっとなるはず)。
https://comic-action.com/episode/3269632237242904443
高野秀行は『アルジャーノンに花束を』。これは「当事者研究」だと、医学書院の「シリーズ ケアをひらく」を紹介。このシリーズの当事者、またはケアの専門家が執筆するという性質上、物理的に不可能な「知的障害」の例がここにある、と。彼の見方は本当にユニークで、決してSF幼年期じゃありません。
大槻ケンヂは漫画『「たま」という船に乗っていた さよなる人類編』。バンドブームの只中にいた当事者たちのわかってない加減が面白い。芸能界もこの頃には落ち着いていたと思っていたけど、そうでもなかったんだな…。
服部文祥は自然農法から福岡正信『わら一本の革命』。「耕す(cultivate?)」は「文化(culture)」の語源らしい。へぇ。日本の農村で自然農法は無理だから、山奥で一人でやるしかないよな。厳しい。
古本屋台のそうめん。むちゃくちゃ美味そう。蚊取り線香からの流れが不思議と自然。
円城塔は第二次世界大戦で日独の暗号を解読する『コード・ガールズ』の紹介。いい話ばかり伝わってくるが、戦時中は厳しい職務を完遂しながら、戦後は職を奪われたらしい。
風野春樹が紹介するのは砂川玄志『人類冬眠計画』。一見ハードSFの『三体』で何が嫌いって、何百年って単位で冬眠するんですよね。ありえないでしょう!? 誰がその間、電源を供給し、メンテナンスし続けるのか考えると、ゲンナリするんですよね、たかだか数百年のお墓の管理さえ止まってしまうのに…。まぁ、ロケットの中の1年程度なら分からないでもないですけど。
沢野ひとしの「満洲国」と「関東州」の違いの話が面白い。傀儡国家の一言では終わらない様々な面がありそう。
椎名誠の連載「哀愁の町に何が降るというのだ」は高校時代の自叙伝。あまり作為はないはずだが面白いなぁ。
読者投稿常連の宮崎で教師をしてられた中武照美さんは退職されたようで。一区切り、ひとまずお疲れ様でした。