本の雑誌 2024年10月号 – 円城塔「のちに哲学という形に縮小されてしまう大きな思考の流れ」

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本の雑誌 2024年10月号 (No.496) 麦とろ三度笠号 / 本の雑誌社 / 800円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集:国会図書館で調べものを

何となく知っていることが多かったかな。出版社の納本、全冊永久保管、閉架、貸出制限あり、コピーサービス、デジタル化。ただ行ったことなくて、知ってる気になっただけなので、行くとき再読します。
「ローラー作戦」しているライターって尊敬します。自分の真摯さとの闘い。2回以上ローラーしなくてすむよう事前に綿密な計画を立てて実行し、それでも新事実が見つかりやる羽目になる、の連続なんだろうなと想像してみたりします。

新刊

石川美南の取り上げた現代文学の新刊は閉塞感の固まり。時代だよな。「劇的な展開をあえて回避するような頑固さ」って表現がいい。「詩において「わたしたち」という一人称を用いるのはとても難しい。」そうです。「恐れ知らずの姿勢」とも。そうなんだ。
大森望は全部高評価の5作。宮西建礼は『新しい世界を生きるための14のSF』所収の「もしもぼくらが生まれていたら」が物凄く良かった、テーマ的にもストーリー的にも。ついにデビューなのですね。
東えりかは、つい、亡くした夫のことが出てしまう感じなのでしょう、つらい。
村井理子は何となく終わった話と思っていたら現在進行系。きつい。私自身状況が似ているのでなおさら。
『失われたものたちの国』で編集部松村が紹介しているのが、古い英語で「夜明け前、心細さで睡れぬまま身を横たていること」を意味する「Uhtceare」。その状態に名前があるのがいいね。
宇田川拓也が紹介する『ターングラス』は、1冊の本にふたつの物語が、表と裏で逆向きに印刷されているらしい。想像しているのと同じか実物で確認したい。

連載

「本棚が見たい!」は新保信長。並んでいるのはすべて漫画で、背表紙のフォーマットはぐしゃぐしゃなはずなのに綺麗。新書判の10冊以上のシリーズがないから?
♪akira の紹介する『ブロディ先生の青春』は不穏すぎ。生徒があることに気づいて裏切りを決心って、何なんだ。面白そうだぞ。
今月号には吉祥寺の本屋がいっぱい。和氣正幸は「緑のゆび」、小山力也は「防波堤」、石川春菜は「BOOK CAFE TERMINAL」、北原尚彦は成蹊周辺の昔の古本屋。
その北原尚彦は新潮文庫の『シャーロック・ホームズの叡智』を許せないと。わかるわー。あとがきの「割愛」って裏切られた気分だったもんね。でも私は判型が異なるほうが嫌かな。そんな中高時代に少ない小遣いで買い集めた鮮やかな水色の新潮文庫版ホームズ全集+傑作集13冊も、先日の実家の整理で捨てたのでした(泣)。あ、あと後年、「ドイル傑作集」が3冊じゃないと知ったときの驚きも相当だった。コンプだと思ってたのでなおさら。
山脇麻生は『働きマン』。何となく知っていた気もするけどそうかあれは週刊誌編集部が舞台だったか。時代的に良かったのだろうな、今では成り立たないよ…。
図書カード三万円使い放題は永井紗耶子。買い物の様子と買った本を流れるような文章で、知的好奇心を絶妙に、嫌味なく揺すぶる紹介。上手いなぁ。「まつろわぬ民」とは大和朝廷に従わない人々くらいの意味か。熊襲、蝦夷、土蜘蛛、隼人。
椎名誠は中尾金属株式会社でのアルバイトの話。70年代?の元気な日本が、文体もあってか眩し過ぎる。
栗原康はオリンピック。もうすっかり正体を明かされた感があります。今月書いた人の、でもテレビは見ちゃうってのが正直でいい。文章のテンポが堀井憲一郎を思わせた。
その堀井はスタンダール『赤と黒』を紹介。1830年刊行。毎度の対比で日本は江戸時代と聞くとクラクラしますな。
藤野眞功は研究者本に対して、古き良き時代は、「私」をキャラクター化する必要はなかった、最近は世間が研究者に私小説化を要請する圧力が強まっている、と。それは研究者の個性じゃないかなぁ。そうではなくて、やっぱり編集者が数十ページ割くことを求めるのかなぁ…。
服部文祥は、身体(五感)を持たない高速計算機に意識は持てない、と。SFチックな議論の展開ができそうな面白い投げかけです。
徳永圭子によると本にビラ等の紙片を挟む人がそれなりにいる/いたらしい。そんな楽しい話があるなんて考えもしなかったし、経験もしていない。
岡崎武志は『さあ、本屋をはじめよう』から、高松の「なタ書」に言及。運もだけどバイタリティが凄い。目黒に「COW BOOKS」ってのがあるのね、行ってみる。
鏡明の最も信頼できる音楽評論家は北中正和、小倉エージ、水上はるこで、『音楽雑誌と政治の季節』の「日本語ロック論争」に対しては、サザンとYOASOBIで結果が出た、と。
円城塔はアフリカの哲学。「のちに哲学という形に縮小されてしまう大きな思考の流れがあったはず」って文章が強いです。
風野春樹は『校歌斉唱 !』。確かに取材は大変そう。学校関係だし、超ローカルだし、消えちゃうし、色々。この本はどれくらい、どこまで広がっていくのだろう。
青木逸美は、目の前を過ぎている超大物の一人、京極夏彦の10冊。断片的に聞いていたタイトル群をこの紹介がつなぎ合わせてくれました。伝説の『姑獲鳥の夏』から行ってみるかなぁ。あらすじだけでも面白そうだ。

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