本の雑誌 2016年12月号 – ボブ・ディランのノーベル文学賞受賞に対してツボちゃんはなんと言っているのだろう?

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本の雑誌 2016年12月号 (No.402) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン 和田誠 / 表紙イラスト 沢野ひとし

ボブ・ディランのノーベル文学賞が発表されたのは2016年10月13日でしたが、触れているのは鏡明と堀井憲一郎の二人。鏡明は原稿到着順でブービー争いの常連(ビリは青山南で固定)ですからきっと締切りにギリギリ間に合ったのでしょう(堀井憲一郎は不明)。方やそっけなく明後日の方向にずれていき、方や毎度の人を食った文章ですが、どちらも深く、長い、自分なりの距離感が込められています。テレビ局も「風に吹かれて」ばかり流さず、こんな人にコメントをもらえばいいのにね。
そしてツボちゃん。読書日記は9月22日までだし、原稿も早く上げているようですので間に合わなかったのでしょうね、次号に期待します。

ところで「今月書いた人」を読んでいると中間くらいにいる黒田信一が締め切りについて触れています。校正等もあるので単純にこの順番ではないでしょうが、それにしても後半の人は全部、締め切りすぎってことなのか? 編集部大変だわ…。

冒頭の本棚が見たいは森英俊。本がニョキニョキとタワー状になったある種の「魔窟」ですがとても綺麗。これならすごーく頑張れば俺も出来るかも…と手の届きそうに思わせる(でもきっとできない)本棚です。もちろん棚一段分の購入価格が120万円とかいうレベルの中身とはレベルが異なりますが…。

特集は「歴史小説に学べ!」。

歴史小説にはちーっとも興味がなく、学生時代には新撰組と赤穂浪士が区別できず、司馬遼太郎を未だに一冊も読んだことがなく(実際は司馬遼太郎が悪いのでなく、司馬遼太郎ありきのムードがちょっと苦手というか。大矢博子の「いつまでも司馬遼太郎じゃないのだ」がまさに)、坂本龍馬にもピンときませんし(これも龍馬が悪いのでなく、龍馬ファンのステレオタイプ感が苦手)、未だに小早川秀秋と言われても「聞いたことはある」程度。

が、この特集は素晴らしい。

まず青木逸美原案の年表と内田剛、浜本編集長による鼎談がまるっと歴史小説を洗い出し、要所要所に荒山徹を出して SF クラスターを喜ばせてくれます。そして信長、関ヶ原、忠臣蔵、坂本龍馬、新撰組の切り口で上の年表に登場した作品やテーマを深掘りする形。久しぶりの茶木則雄の泣かせる薩摩義士と、北上次郎の笑わせる若き日の履歴書に書いた「尊敬する人物」。おじさん三人組の討ち入り跡散歩も良いです。読者のおすすめでは、ちょっと外れるが『アイヌ学入門』が色々目を開かせてくれそう。
そして締めくくりに「読み物作家ガイド」では、なかなか読み出せない司馬遼太郎をキーワード「青春」の下に10冊リストアップ。これが本当にエンターテインメントで、最初の言葉とは矛盾しますが小説家としての魅力が逆に立ち上がる趣向です。「梟の城」は吉野朔実(のお父さん)も挙げていましたね。

 

新刊紹介では店頭でも目立ってた『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』と『来福の家』。特に後者は、自分の職場環境でも普通にインド人や韓国人がいるわけで、人種差別の意識のないまま「つい」不適切な表現が出る場合もあり悩ましいです。

北上次郎は谷瑞恵『木もれ日を縫う』を絶賛した上で「生の感情が漏れ出る箇所があって気になる」と。主人公に「悲しい」と言わせてはいけない、ってことでしょうかね。2号前で酒井貞道が『アメリカン・ブラッド』を「酒場のトラブルで喧嘩に圧勝することで主人公を「魅力的」に見せたことにする、手垢に塗れた手法」と批判していたのに通じます。

内澤旬子はますますラグジュアリーなスーツの話し。シャツ1枚の面白さがよく伝わりました。そろそろスーツの値段を教えてくれないかな。多分これまで一度も触れたことが無いはず。きっと高価なのでしょう。

服部文祥の連載の一命題が「生命の存在理由や生きる意味を、卓越した言説表現の中に探す」ことらしい。難しい命題ですが様々な方向から上手くアプローチしています。

今号で連載陣入れ替え。連載終了する人は

  • 小野一光「事件記者日記」… テーマが良過ぎました、面白かったです。興味本位やら、全篇殺伐やらとならなかったのは素晴らしい人間味のせい。飲み屋のママと仲良くなって一体感を得るとか、良かったです。
  • 堀部篤史「開店の朝」…入江敦彦との論争を期待したのになぁ、残念。
  • 今尾恵介「地図の秘密」… これもテーマが良かった。身近なのに知らないネタばかり。
  • 栁下恭平「校閲者梯かもめ式」… ツボちゃんや椎名さんとの校正者論争(?)を期待したのになぁ。しかも「校閲ガール」で盛り上がってきたところなので、これも残念。少しだけ早すぎたか。
    蛇足だが、この文章を書くために検索したらお顔が出てきたのですが、えええ。ガリガリに痩せた人を想像してましたわ。
  • 若島正「本棚の記憶」… 何となく円城塔、風野春樹と続く長期連載化すると思っていたので終わるのが意外でした。これまた残念。
  • 矢口誠「あなたになりたい」… 特撮気質は好きでしたが、内容は良い時と悪い時の差が目立った感じ
  • 酒井貞道 新刊海外ミステリー … 熱血分多め、かつ、辛口も少し、のバランスが良かった。
  • 都甲幸治 新刊海外小説 … マイノリティに対する感じ取り方が際立っていました。繊細な人なのでしょう。
  • 円堂都司昭 国内ミステリー … 毎月、複数の書評をキーワードでつなげるアクロバティックな技を披露。時間がかかったはずです、お疲れ様。

しかしこうしてみると書評そのものでなく、紹介する本の内容に引っ張られてしまいますね、どうしても。

「本の雑誌」は2年スパンで回しますので、もしかすると冒頭の「本棚が見たい!」もおしまいかな? 個人的には続いてほしいが。日下三蔵の魔窟をカラーで紹介してないし。

 

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