途中下車 – 降りた人、見送った人

投稿日: カテゴリー

途中下車 / 高橋文樹 / 幻冬舎文庫 / 457円 + 税
カバーデザイン+イラスト ゴトウヒロシ

両親を交通事故で亡くした大学生のぼくと4つ下の妹、理名は叔父を後見人に二人暮らしを始め「葬式以後3ヶ月」を乗り切る。ぼくは合コンで知り合った麗奈と付き合い始めるが、3ヶ月後理名とも寝るようになる。

最初から最後まで死の上に成り立った物語。登場人物たちは死で空いた穴を埋めるためだけに誰かを求めます。麗奈であればバイク事故で死んだ元カレですし、ぼくと理名であれば事故で突然失った両親の家族愛。タイトルに合わせれば、愛する人に途中下車されてしまい、それでも列車に乗って終着駅に向かう人々の物語という言い方になるのでしょうか。

作者は盛り上がりや泣かせをあえて避ける構成を取って、読者を3人に集中させます。金銭的な苦労はあっさり排除しますし、カズちゃんの暴露にもさしたるページを割きません。ぼくの両親に対する思いも直接的な表現はほぼ避けられ、そのため事故現場でのありきたりな麗奈の「忘れること」という表現に苛立つ僕が際立ちます。実際には麗奈の体験から出た重い言葉である皮肉なのですが。

面白いのは理名と麗奈の描き分け。麗奈のパートが最初の合コンシーンから詳細を極め、それは続くラブホテルでのやり取りや、伊豆のペンションでの会話、回想も同様です。一方、理名のパートはどこか曖昧で歯がゆい感じ。ちょうどあだち充の「みゆき」のよう。ただ一瞬、千葉の海でのサンオイルの件とそれに続くラブホテルのシーンで「家族愛」が「近親相姦的愛情」に切り替わり、途中下車感を増します。

本来であればぼくと理名の関係も、恐らくはカズちゃんの「発見」によって破綻したはずですが、宇賀神の死により「自由」を選択する形となって物語は終了します。最後の到着まで見たかった気はしますが、不幸な結末であることだけは確かでしょう。

なお文庫版の本作は2001年の単行本を「大幅に加筆・訂正」して2005年に出版されたもの。どこが変わったのか気になりますね。

 

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