本の雑誌2015年11月号 – バーニーズニューヨークの鴨田さんの連載を始めよう!

本の雑誌 2015年11月号 (No.389) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン 和田誠 / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集は「2015年 SFの旅!」。本の雑誌社発行の『サンリオSF文庫総解説』が星雲賞を受賞した縁もあっての特集ですが、牧眞司の発言にあるように「本の雑誌」の SF度が年々高くなっているのも事実。大森望の連載を 25年続ける一方で、「冬の時代」を勝手に宣言して業界すべてを巻き込んだ大事件にしたり、鏡明や池澤春菜や円城塔や風野春樹の連載を持ち、大森望と山岸真の新作紹介、高橋良平の長期連載を続けたり。本当に「唯一の月刊SF雑誌」の名に恥じない活躍です。

話は逸れますが「冬の時代」は当時の私の感覚には合っていました。いくら大森望が、あれもある、これもある、と挙げてくれても食指は動かず、「ハイペリオン」4部作とか例外はあるけど、小粒な作品のイメージばかり。で、高橋良平のつぶやきに編集部と鏡明が乗っかった図ではありましたが、正直に言ったなぁと思ったものです。

それにしても見てくださいよ、この21世紀のSFベスト100の力強さ。1位『皆勤の徒』、3位『あなたのための物語』、4位「廃園の天使」シリーズ、5位『虐殺器官』、8位「マルドゥック」シリーズ、9位『新生』、10位『NOVA』。そしてこの間がテッド・チャン、イーガン、プリースト。赤道直下の真夏のような騒ぎです。

特集は他に早川書房と東京創元社の編集者対談、SFの古書価の動向(ディックとサイバーパンクはほぼ持ってるな)、21世紀SF事件簿(日本SF作家クラブって、まだこんな大事件があったのか…)、おじさん二人組 SF大会に行く! と盛りだくさんで充実した内容。良い特集でした。

 

新刊では酒井貞通のミステリー全部、特にシェリー・ディクスン・カー『ザ・リッパー』。円城塔の『シャッフル航法』と『エピローグ』、都甲幸治と堀部篤史の推すミランダ・ジュライ『あなたを選んでくれるもの』(訳者は岸本佐知子)。

入江敦彦は「作家の京都グランドツアー」。梶井基次郎は京都のことが何もわかっていないと切り捨て、夏目漱石も理解はしてないよねと軽くジャブ。京都から、日本中の京都以外のすべての地域に喧嘩を売るのだけど、不思議と嫌味がありません。平松洋子はいつものスタイルで立ち食いうどんの紹介。毎回どの店にもこだわりがあり、うどん愛があり、とにかく美味しそう。なんでこんなに紹介が巧いのか。

内澤旬子は久しぶりにバーニーズニューヨーク鴨田さんネタですが、これがまた非常に面白い。伝聞形式を臨場感持って伝えるのも上手なら突っ込みも上手。ネクタイをするシャツとネクタイをしないシャツがあるなんて初めて知りましたよ。いつまでもこのノリで続けて欲しいです。んー、でも待てよ。鴨田さんなら作家陣以外にも面白いネタをたくさんお持ちでしょうから、ここは連載でいかがでしょうか > 浜本編集発行人。

沢野ひとしの中国エッセイもどの回も面白い。オウイエンジュとの関係がどうしても気になりますが、それ以外にもマカオの猫カフェ(?)のコーヒーが美味しいとか、親父との対比とか、独特の切り取り方が温かい気持ちになります。中国の公園で鳥を愛でながらの散歩とかも好きでした。

作家ガイドは三浦しをん。松井ゆかりが真正面から丁寧に紹介していきます。未読の作家ですが、おすすめ長編がほぼ分かるのは「本の雑誌」のお陰ですよね。脇道ですが「次元五右衛門チェックシート」が見たい。

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