本の雑誌 2015年3月号 – 翻訳文学は終わったのか?

本の雑誌 2015年3月号 (No.381) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン 和田誠 / 表紙イラスト 沢野ひとし

今号の一番の読みどころは鴻巣友季子「翻訳文学よ、永遠に」。
私も翻訳小説は大好きですが、世間とのギャップは感じます。トヨザキ社長らが盛り上げ、大書店ではきっちり並んでいるのでつい誤解してしまいますが、一部何ですよね、残念ながら。
「本屋大賞」の書店員のコメントを読んでも「あまり翻訳物は読まないのですが…」が枕詞ですからね。
ターゲット精度の高い訳書ばかりでない紹介に期待したいと思います。
たとえば何だろう、ジェフリー・アーチャーなんて最近、書評見ないが、どうでしょうか?
でも「今月書いた人」を読むと鴻巣友季子は『風と共に去りぬ』の新訳を手がけるとか。意地悪な読み方をすると宣伝にも読めるな、このエッセイ。

特集は「本を処分する100の方法!」。
冒頭カラー日下三蔵の部屋が素晴らしい。これ全部が「お宝」ですからねぇ…。に関連して、最初の処分方法は「売る」。どんなに本を抱えていようとも、いざ手放すとなると、なかなか選び出せないのはプロの書評家も我々一般人も皆同じ。
で、泣く泣く(?)売った金額が貸本児童書 137冊で 106000円。1冊 773円。一方、単行本42冊、文庫本48冊、合計90冊で1000円。ってことは1冊約10円。
日下三蔵の蔵書なのでミステリー系エンターテイメントでしょうが、こんなものなのですね…。

次の処分方法は「電子化」。引っ越しのため止む無く自炊した西牟田靖ですが「紙の本に比べると、あらゆる点でとうてい及ばない。」。ですよねぇ…。関連(?)して、三角窓口の常連、松岡秀治が「僕はモニターでは小説を読めない」と言ってますが、同感です。

意外と真面目なのが大森望、茶木則雄、吉田伸子の対談。処分方法について寄付する、第三者に任せる、燃やす、と。一方で「特別な作家」を決めても本は減らない、どころか大変なことになる、と至極真っ当なコメント。捨てるくらいなら「たもかく本の街」http://www.tamokaku.com/index.php が今回の収穫です。

ちなみに私は学生時代、本は実家に送っていましたが、カビや虫食いで全滅し相談もなく捨てられました。また大切なマンガはガラス付き本棚で保管していましたが、妹の帰省で実家に行った甥にグシャグシャな読まれ方をされました。親や妹が悪いというつもりはなく、本なんてその程度の扱いがフツー、と。栞子さんの仲間たちみたいなのが希少人種なのです。
教訓。大事な本は肌身離さず。

新刊めったくたガイドでは堀部篤史の食をテーマの3冊が良さそうです。
『アンソロジー そば』
『台所のメアリー・ポピンズ おはなしとお料理ノート』
『旧帝国ホテルのクリームソーダ』。
おぉ、タイトルだけ書いてもいいですね。飯嶋和一の物語の本筋でない部分の描写の見事さを切り取ってみせる北上次郎も良いです。

秋葉直哉は讀者より編輯部の皆樣へと題したラブレター。真面目な仕事への称賛です。

第二特集は「もしも小説大集合」。北上次郎が永遠の1位(のはずの)「リプレイ」をして、アレは若いときに読んだから1位であって、年取ってからもう一度人生やり直せと言われても疲れる、と…。目から鱗、と言うより、少しがっかりの評です。で、1位はテッド・チャン「商人と錬金術師の門」。タイムスリップしてもやり直すことはできない。ただ同じ物事でも見方が変わり、思いも変わるだけ。うーん、それはそれで凄いね。

宮田珠己の紹介する『かわいい仏像』では、本当に素朴で下手なものだけ集めてあるらしいです。素晴らしい。最初からその方針でなく、『日本の素朴絵』から進化しているところが特にいいです。またムーミンの小説がすさまじい世界観というのも初めて知りました。読みます!
で、内澤旬子「着せ替えの手帖」では写真入り。かっこいい。

青木大輔は『南方熊楠英文論考』の紹介。南方熊楠って英語話せたの!? レベルなので驚きました。古今東西の文献を縦横無尽に扱い英国の読者に答えるなんて!

若林踏は鮎川哲也の10冊。「本格の鬼」とだけ知っている人でしたが、紹介は、その先にある物語としての豊穣性も十二分に伝わる内容。本格系は苦手な私ですが『憎悪の化石』から読んでみようかという気になりました。

 

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