亡国のイージス (上)(下) / 福井晴敏 / 講談社文庫 / 各695円+税
カバーデザイン 樋口真嗣
デジタルドローイング 江場佐知子
不幸な生い立ちの行。息子を失ったイージス擬装護衛艦≪いそかぜ≫艦長の宮津。≪いそかぜ≫先任伍長の仙石。北朝鮮兵士のヨンファ。陸海空の自衛隊員、市ヶ谷のバックオフィス、無数の登場人物。≪いそかぜ≫を中心とした内外の戦いを描く冒険小説。
冒頭、行のエピソードでいきなり感動。あまりに強烈過ぎるので後の展開でのスパイ疑惑等の「振り」がまったく機能しないほどでした。前半は映画の宣伝等で推測していた通り、ダイ・ハードシリーズやスティーヴン・セガールの「沈黙の戦艦」的展開。そこに福井晴敏が他の作品でも繰り返す問う「自衛隊は本気で戦う気があるのか」や、映画でも有名になった「よく見ておけ、日本人。これが戦争だ」というテーマが一貫して唱えられます。本気で国を守る気があるのか? 自分で考えず、ただ命令に従うだけで何か意味があるのか? 職域奉公と表裏一体の無責任。象徴的な例は、≪いそかぜ≫からの総員離艦のシーンでしょうか。ヨンファの設定や台詞がとても活きていたと思います。
後半は予想外のかわぐちかいじ「沈黙の艦隊」的展開。割合ドライだった前半に比べ、後半は情と涙に満ちた展開。嫌いではなく、むしろ好きな方ですし、ジョンヒと行のシーンなどいいシーンも多々ありますが、前半に比べるとパワーダウンは否めません。ヨンファも弱くなってしまいますし、最後は米軍側の動きもあって茶番じみてしまいました。大部の面白い小説を読み終えた満足感はあるものの、嘘でも前半部の緊張を維持するストーリー立てが欲しかったところです。