星を継ぐもの / ジェイムズ・P・ホーガン / 池央耿訳 / 創元推理文庫 SF / 340円 (古本屋で100円)
カバー スタジオぬえ 加藤直之
Inherit the Stars by James Patrick Hogan (1977)
月面から、5万年前の人類の死体<チャーリー>が発見される。物体透視装置トライマグニスコープの開発者ヴィクター・ハントは国連宇宙群から、<チャーリー>の体や所持品の検査を依頼される。幅広い視野と洞察力を持つハントは、宇宙軍航行通信局本部長コールドウェルにより、<チャーリー>の謎全般に渡る真相究明チームのリーダーに任命される。
全体の道具立てや背景等はいかにも SF ですが、逆に SF 縛りにしたミステリーの感もある作品。小説一本が<チャーリー>の謎に絞って展開されるあたり、最近読んだ「別れを告げに来た男」に似ているかも知れません。途中、すべのて事象を完全に説明しきれない諸説と議論をぐだぐだと展開しながら話しが進む部分も、似たような感じです。正直中だるみ感が強かったです。
作者の姿勢は非常に真摯で好感が持てました。SF縛りと言いながら立場を科学者に限定し、可能な限り科学的根拠や未来観に基づいた考察で、真相への期待が高まります。余談ですが途中に出てくる通信やコンピュータ関連の表現がまったく古びていない点には驚かされます。特に大陸を横断しながらリレーで通信していく、しかもやっていることはメールベースなんて、本当にさりげなさ過ぎて素晴らしい記述です。そんな中でも、どうしても浮かんでくるアイデアが、まさかタイムスリップじゃないだろうな…、と。
で、その真相ですが、タイムスリップか否かはともかく、SF的な大技をギリギリの量(まぁ、度を超しているという見方もありますが)、と絶妙なタイミングで繰り出す巧さで感心。終わってみればタイトルもすべてを象徴していました。
メモ: 冒頭の「巨人」は何者なのか。やはり字句通りアレでいいのか、それとも象徴の意味の「巨人」でしかないのか? P.24のヴァレリヤ・ペトロホフのエピソードは何なのか。